2年前、副院長の女医さんが退職された時に、送別のミニコンサートを弾かせてもらった(2084話)。その後、病棟ではコロナやらインフルエンザの流行が何度も繰り返され、病棟行事のレクリエーションもできない状態が続いていた。今回は自分の退職もあるが、若くしてお亡くなりになった臨床心理士Tさんの追悼の意味を込めて弾きたいと申し出たらあっさり許可が出た。
家では追悼の曲として「カッチーニのアヴェ・マリア」を弾いたけれども、皆さんの前で弾くのにはそれでは悲しすぎる。いつも笑顔を絶やさなかったTさんのことを考えてラヴェル作曲「亡き王女のためのパヴァーヌ」を1曲目に持ってきた。そして2曲目は50年以上人前で弾くことを封印してきたマスネ作曲「タイスの瞑想曲」にした(拙著『神経質礼賛』p.251)。その後は元気が出るようにヴィヴァルディ作曲「四季」から春第一楽章、モンティ作曲チャルダシュ、最後はサティのジュ・トゥ・ヴというラインナップにした。
この曲は、ラヴェルがスペインの画家ベラスケスが描いたマルガリータ王女の絵からインスピレーションを得て作曲したとされている。ラヴェル初期の傑作で、ピアノ版と後に自身がオーケストラ用に編曲した版、さらには他の編曲者たちによる独奏楽器用の様々な編曲版がある。かつて医大オケで演奏した時は、冒頭のホルン独奏者のプレッシャーは大変なものだった。管楽器はどれもそうだが、特にホルンは安定した弱音を出すのはとても難しい。ホルンのソロを吹いた人は、今では県立総合病院で病理医をしている。弦楽器部門にも「軽い早い弓で弾くように」という指示があって、なかなか思ったような音が出せず苦労した記憶がある。簡単そうに見えて綺麗に弾くのは難しい。
昨日が演奏当日。昼休みの後半に職員が食事をする所で演奏。周囲を囲むように至近距離に特別に椅子が並べられ、ビデオカメラやスマホ動画撮影されるとなると緊張感はMAXである。ぎこちない動きでだいぶミスが出てしまった。ビデオ録画が期間限定で院内研修の一つとして閲覧できるようになっていて、困ったものである。その後で認知症の方々が入院している病棟でも後半の3曲を弾く。普段大声を上げている方も静かに座って聴いていて下さった。こちらはまずまずの出来で、弾かせてもらってよかったなあ、と思った。
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