前の先生から引き継いだクリニックでの患者さん。「うつ」で長いこと休職している。毎週受診され、「全然眠れない」「昼間眠くて何もできない」と言い、日中はごろごろして過ごしておられる様子。毎回身体の不調をあれこれ訴えていかれる。抗うつ薬が2剤、それを増強する抗精神病薬も加えられ、睡眠薬は長時間型が2剤処方されている。睡眠薬の持越し効果により日中に眠気が残ってしまうのではないか。生活リズムの問題も大きいように思われた。まずは睡眠薬の調整を行っていった。減量しても特に症状悪化はない。しかし、本人の訴えは変わらない。そこで、拙著『ソフト森田療法』をお貸しし、「字が大きいし軽く読める本ですから、試しに50ページまで読んでみて下さいね」と伝えた。50ページまでの間には、①不安・②不眠・③気分の落ち込み・④意欲低下・⑤体調不良への対処法があり、この人へのアドバイスになると考えた。そして、通院間隔を1週ごとでなく2週に1回とした。
その次の診察の際に「本をありがとうございました」と返却された。特に感想はなかった。しかし、それから2週後、4週後に変化がみられた。引きこもり同然だったのが、買い物に出かけるようになった。家事も以前よりできるようになった。元々好きだった韓流ドラマも続けて見ることができるようになり、「録画ストックがなくなっちゃいました」と笑う。診察時の表情も明るい。第4章に書いた「意欲のわかない時」に小さなことでいいから行動してみると、それが「呼び水効果」となって、行動の好循環が起きる、その結果「症状」も薄らいでいく、それを御自分で示したのだった。うつには抗うつ薬、それでも効果がなければ抗精神病薬による増強療法、不眠には新規睡眠薬がエビデンスのある治療法となっている昨今であるが、本当は生活上の適切なアドバイスをするのが良いクスリなのではないかと思う。
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