2010年3月 8日 (月)

神経質礼賛 524.ドライヤーからの発火

 TVのニュース番組で、電化製品からの発火事故が最も多いのはドライヤーだという話をしていた。電気ストーブやドライヤーなどの電熱器具は消費電力が大きく、電源コードに流れる電流が大きいため熱を持ちやすい。それに機器自体が発する熱も受けるのでコードが劣化しやすい。特に、ドライヤーの場合、使い終わってコードをクルクル本体に巻きつけて片付ける人が多いのだが、これがコード内部の撚り合わせた細い銅線の束が少しずつ断線していく原因となるのだそうである。一部が断線するとその部位の電気抵抗が高くなり、より発熱するという悪循環が起ってついには発火という事態に至る。安全なしまい方は、ドライヤーを置いて、その周囲にゆるくグルグルとコードを置くというやり方だそうである。

 私の妻は電化製品のコード類が大嫌いで、ドライヤーに「じゃまな」コードを力いっぱい巻きつけてしまう習性がある。いつもは私が何を言っても聞かない人だが、火事の危険と聞くと、「これからは巻きつけるのをやめる」と宣言していた。ドライヤーは無人状態で使うことはないので、火事になる危険性は低いものの、顔に近いところで使うだけに、発火による火傷の心配がある。

 発火するのは電熱関係の器具だけではない。消費電力の少ない電化製品であっても長年プラグをコンセントに挿しっ放しにしていると、コンセントとプラグの間にホコリがたまって湿気により電流が流れて漏電→炭化→発火となること(トラッキング現象)もあるので、すべての電化製品は注意が必要だ。大掃除の時にでも一度プラグを抜いて乾いた布で拭いておくと安心である。予期しない発火事故を防ぐには神経質にするにこしたことはない。

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2010年3月 5日 (金)

神経質礼賛 523.津波警報

 この前の日曜日には、チリで発生した大地震の影響で津波が予想され、太平洋沿岸に津波警報が発令された。NHKのTV番組は一日中津波関連番組に変更され、民放でも画面の一部に津波情報が表示されていた。太平洋沿岸部を走るJRや私鉄は運転を見合わせ、高速道路や一般道も一部で通行止めとなった。また、被害が予測される地域には避難勧告が出た。幸いにして津波は予測されたレベルを下回り、人的被害は皆無だった。もっとも、津波が1mを越えた地域では、海岸近くの道路が冠水し住宅や店舗の浸水被害があったし、岩手県のカキ養殖業者は大損害となったようだ。

 予報や対応が大げさ過ぎた、と非難する声が上がり、気象庁が陳謝する場面もあった。しかし、私は非難するのはおかしいと思う。逆に予報や対応が甘すぎたら、多くの人々の生命が失われることだってありうる。今回の津波で最高潮位は120cm程度。大したことはないと思われるかもしれないが、50cm程度の津波でも人間は足を取られて流されてしまうという。ニュースで最も潮位が上がった海岸の様子を早送りで流した映像を見ると、わずか10分の間にみるみるうちに潮位が上がって船が岸辺に押し流されて岸壁以上の高さまで上がったかと思うと今度はみるみるうちに潮位が下がって船が沖の方向に流されていた。もし岸辺に立っている人がいたら流されてしまっただろう。警報を出さなかったら、交通マヒは起きなかった代わりに、海岸にいた漁業関係者やサーファーや観光客が巻き込まれていたはずだ。これだけ厳重な対応をしたからこそ人的被害が出なかったのだと思う。

 避難勧告で避難した人たちの中には第一波が小さかったからといって帰ってしまう人たちがいたということだ。実際には第二波で最高潮位となった。油断は禁物である。また避難をしない人たちも少なくなかったようだ。たまたま予測以下で済んだが、いつもそうなるとは限らない。予測以上となることだってありうる。命に関わることには大いに神経質であった方がよい。

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2010年3月 3日 (水)

神経質礼賛 522.前奏曲嬰ハ短調「鐘」

 バンクーバー・オリンピックの女子フィギュアスケートをTVで見た方は多いと思う。浅田真央選手の演技は実に見事だったけれども、ライバルのキム・ヨナ選手の演技は完璧としか言いようのないもので、残念ながら銀メダルになった。逆転優勝がかかったフリー演技では、ライバルが自分の直前に完璧な演技をした後だけにプレッシャーは大変なものだったと思う。浅田選手には金メダル、それを上回るキム選手にはプラチナメダルをあげたいところだ。この時の音楽はセルゲイ・ラフマニノフ(1873-1943)作曲の前奏曲嬰ハ短調「鐘」。同じラフマニノフ作曲のピアノ協奏曲第2番やパガニーニの主題による狂詩曲はロマンテイックな旋律ゆえフィギュアスケートの音楽としてよく使われている。前奏曲嬰ハ短調は重厚過ぎてあまり使われないのではないかと思う。

この前奏曲嬰ハ短調を初めて聴いたのは、高校生の時である。私の同級生が音楽室のピアノで弾いていた。大柄な彼がグランドピアノを力一杯弾くと、重い鐘の音が鳴り響くようにも聞こえた。体格に似合わずシャイな彼はこの曲が一番好きだと言っていた。この曲はラフマニノフの出世作で、初演の際には熱狂的な支持を得たと言われる。ラフマニノフ自身の演奏を記録したピアノロールから復元したCDが出ていて現代でも彼自身の演奏を楽しむことができる。心に迫ってくる名曲だけれども、私個人としては人が重圧に苦しみもがき救いを求める様子を表現しているようにも感じる。

ラフマニノフの人生は決して順風満帆ではなかった。貴族の家に生まれたが父の代に没落してついに破産し両親は離婚。音楽院では教師と対立。そして以前「神経質なラフマニノフ」(307話)で書いたように、交響曲第1番が酷評され、失恋や指揮者としての失敗も重なって「神経衰弱」にかかった。ニコライ・バジャーノフ著 伝記 ラフマニノフ(音楽之友社)にはそのあたりの状況が詳しく書かれている。アマチュアのヴィオラ奏者でもあった精神科医ダーリのもとに1日おきに1ヵ月半通った。暗示療法・説得療法とも言えるような治療で自信を取り戻し、最高傑作のピアノ協奏曲第2番を世に出すことになる。楽譜には「S・ラフマニノフ、協奏曲ハ短調 N・V・ダーリに捧ぐ」と書かれていた。

 重圧に苦しんで踏ん張った後にはそれなりの御褒美があるのではないだろうか。浅田真央選手も本人の言う通りでケガをしないように練習を重ねて次のオリンピックでさらなる活躍をしてくれるものと思う。

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2010年3月 1日 (月)

神経質礼賛 521.パシュート

 昨日の朝は、バンクーバーオリンピック・女子パシュート決勝の放送に目が釘付けになった。パシュート(団体追い抜き)は前回のトリノオリンピックから正式種目になったもので、2チームがそれぞれ3人で滑って3人目のタイムで競うというルールである。男子は400mリンク8周、女子は6周なので、瞬発力だけでなく持久力も要求される。一人だけ速くても勝てない。先頭の走者は空気抵抗を大きく受けて消耗しやすいので、先頭を交代しながら走る。3人が呼吸とリズムを合わせ、ペース配分をうまくやりくりする必要がある。3位となったポーランドは個人では特出した選手はおらず、注目されていなかったが、チームワークの力でメダルを獲得した。決勝は日本対ドイツ。日本チームはまとまりよく前半でリードしていたものの、最後わずか0.02秒差で惜敗し、銀メダルとなった。しかしながらすばらしいレースだった。今朝の新聞を読むと、サポートチームの綿密な作戦作りも奏功していたようである。

 1位と2位がドイツと日本という神経質濃度の高い国民性を持った国が並んだのは面白い。かつてイタリアを旅行した時に、現地のイタリア人たちは電車やバスに我先に乗り込み切符を買わなくても平気という人が多かったが、ドイツ人観光客たちはきっちり列を作って並ぶ、という様子を見て、ドイツ人の国民性を垣間見た気がしたものだ。作曲家でもドイツ系の人たちは強迫性を帯びた人が多い。最近はアメリカナイズされて少々変わってきたかもしれないが、日本人も行列好きで秩序を好む。神経質さでは負けていないだろう。パシュートという種目は神経質向きなのかもしれない、と勝手に思ったりする。

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2010年2月26日 (金)

神経質礼賛 520.人の品性

 勤務先の病院の資料室には森田正馬先生自筆の色紙がざっと60枚以上積み重ねて収蔵されている。それとは別に、入口近くの目立たないところに掛けてあって、今まで見落としていた色紙があるのに気付いた。

「職業によりて人の品性の定まるにあらず その人の品性によりて只 職業の貴賎を生ず」というものである。

 これは実に当たり前のことだと思うのだが、世間ではそうは思わない人も少なくないようである。職業で判断して「あの人は○○だからすごい」と持ち上げたり、「あの人は☐☐の分際で偉そうだ」とけなしたりしがちである。一種の「レッテル貼り」だ。10年近く前、猫の額ばかりの土地を買って今の家を建てる際、隣家に手土産を持って御挨拶に行ったら、隣の奥さんは誇らしげに「ウチは県庁職員ですがおたくは何ですか」と言った。田舎ではお役人様はとても偉いらしい。

 職業では人の品性はわからない。世間でセンセイ稼業と言われる人たち・・・例えば、弁護士、教師、医師を見ても、本当に「先生」と呼びたくなるすばらしい人から、人格に疑問符がつくような人まで、ピンからキリまである。ましてや国会議員のセンセイ方ともなれば新聞で読む限り、後者の方が圧倒的に多いのではないかと思わざるを得ない。国会議員が賤しい職業では困る。

 その人の品性があらわになるのは、注意してくれる人がいない立場になった時である。先日引退した大相撲の横綱は典型例だろう。指導する立場にある親方は弟子の暴力が怖くて見て見ぬふりをした。強い人気者だから客寄せということで相撲協会も問題行動に毅然とした態度が取れなかった。そして未熟な人格が暴走してしまった。これは周囲の人ばかりでなく本人にとっても不幸なことである。大物国会議員、会社の経営者、大学教授のような立場では諌めてくれる人がいなければ、同じようなことが起きうる。

 小心者で周囲からどう思われるか心配する神経質人間ではそうした「裸の王様」になってしまう可能性は低いが、用心するにこしたことはない。以前、「天神様は神経質」(381話)で書いたように、森田正馬先生の神経質学説をいち早く支持し自らも森田療法を行った下田光造九州大学教授は、「(神経質者は、)世の多くの英雄や天才が自制心に欠けて、その没落や挫折をきたすのとは趣を異にし、反省心に富むと共に、向上努力の念が強いため、真に偉大な人物が生れる」と神経質を礼賛しておられた。偉大な人物にはなれないまでも、反省と向上努力で神経質を生かしていきたいものである。

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2010年2月22日 (月)

神経質礼賛 519.水中毒

 今はバンクーバー冬季オリンピックの話題でもちきりだが、冬のスポーツはスキーやスケートばかりではない。隠れたウインター・スポーツは駅伝やマラソンだと思う。たいていの高校では2月頃に全員参加のマラソン大会があって、その1-2ヶ月前から普段の体育の時間に校外を走るようになる。子供たちは大変だと言っている。私は走るのはまるで遅かったけれども、サッカーのように人とぶつかり合うわけではないし、がんばっていれば着々と前へ進んでいく喜びがあるので、長距離走は嫌いではなかった。

 長距離走で心配になるのが脱水である。私の世代では運動中に水を飲むな、と言われていた。今では脱水予防のために水分摂取が推奨されている。駅伝やマラソン大会の際には、中継所で水やスポーツドリンクを飲むのが常識となっている。ところが、この「常識」が水中毒(低ナトリウム血症)を起こす恐れがあることが指摘されるようになった。ボストンマラソンでレース後に行った採血では13%の人に低ナトリウム血症が認められたという報告もある。血液中のナトリウム濃度が低下すると、疲労感、頭痛、嘔吐、さらには意識障害が起り、重症の場合死亡することもある。スポーツドリンクはナトリウムを含んではいるものの濃度は血液中のナトリウム濃度に比べれば極めて低いため、スポーツドリンクを飲んでも塩分が不足して水中毒になりうる。

 水中毒というと聞きなれない方も多いと思う。精神科の病棟ではよくあることで、水中毒を一番多く診ているのは案外私のような精神科病院の勤務医かも知れない。精神科で用いる薬剤自体が水中毒の原因となりうると言われているし、「水を飲め」という幻聴に支配されて飲んでしまう場合や、薬の副作用の口渇のために飲みすぎる場合もあるし、強迫行為として多量に飲んでしまう場合もある。看護スタッフが患者さんのコップを預からせてもらうような対応をしても、水道の蛇口に口を当てて直接飲んでしまうので、過飲水がどうしても防げない場合には、やむなく隔離(行動制限)しなくてはならないこともある。

戦国時代、塩が不足して困っていた武田信玄にライバルの上杉謙信が塩を送ったという逸話は有名だ。20kg前後もある甲冑や武具を身に着けて戦場で激しく戦い続けたら大量に発汗するので、脱水状態でもいけないし、水分だけを補給したところで水中毒になってクラクラになって敵に討ち取られるなどということもあったのではないかと想像する。塩分なしには存分に戦えなかっただろう。

高血圧予防のためには減塩習慣が大切だけれども、マラソン大会のように激しく発汗する場合には水分とともに必要十分な塩分を補給することに神経を使う必要がある。

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2010年2月19日 (金)

神経質礼賛 518.日本近代音楽館

 先週末は日本近代音楽館へ行ってきた。名ヴァイオリニストのハイフェッツから「百年に一度の天才」と激賞されアメリカに渡るも睡眠薬の大量服用から脳障害をきたし悲劇の生涯を送った「神童」渡辺茂夫さんの遺品が日本近代音楽館に寄贈された、という昨年12月の新聞記事を読んで、その存在を初めて知った。残念なことに3月で閉館となるので何とか一度行きたいと思っていた。

今でこそ武満徹の作品が世界的に有名にはなっているが、日本人作曲家の作品は演奏されることが少なく楽譜を入手することも困難である。日本近代音楽館は1987年に音楽評論家の遠山一行氏らが設立したもので、山田耕筰をはじめとする日本人作曲家の自筆譜や関連資料を多数収蔵し、公開している。私が興味を持っているのは山田耕筰作曲弦楽四重奏曲第2番ト長調である。巌本真理弦楽四重奏団のCDで聴いて大変感銘を受けた曲だ。一楽章構成で演奏時間5分ばかりの短い曲。出だしはベートーヴェンの若い頃の作品を思わせ、上昇音型が日の出の光景を連想させる。私の頭には5月頃の農村の朝の爽やかな風景が浮かぶ。小鳥がさえずり、人々も田畑で働き始める。山田耕筰はそもそも声楽科出身で「この道」「赤とんぼ」「ペチカ」「待ちぼうけ」などの歌曲・童謡が有名であるが、こんなにすばらしい器楽曲も作っていたのだ。もっと演奏されてしかるべきだ。日本近代音楽館が刊行した「山田筰作品資料目録」は百科事典1冊分くらいの本で、曲名などのデータが収録されている。全国の大学・高校・小中学校の校歌や企業の社歌も多数作曲しているので大変な数である。大学の校歌で有名どころを拾ってみると、一橋大、東京芸大、明大、日大、同志社大、関西大、関西学院大などがある。

お願いして弦楽四重奏曲第2番自筆譜のマイクロフィルムを見せていただいた。以前に奏楽堂で見た中田喜直(346)の神経質で完全主義傾向が窺われる自筆譜と違い、山田筰の自筆譜からは自由でおおらかな性格が感じられた。閉館前でいろいろとお忙しい中、マイクロフィルムの使い方から御親切に説明して下さった学芸員の方には本当に感謝している。また、この楽譜が(株)クラフトーンという会社から出版されていることも教えていただいた。同社の「山田耕筰作品集」というホームページには山田耕筰作品で販売またはレンタルしている楽譜の一覧があり、「山田耕筰作品集校訂日誌」というところをクリックすると楽譜の校訂を担当している方のブログが読めて、これがなかなか楽しい。

明治・大正時代の音楽家たちは、ヨーロッパの音楽を学び模倣した上で、日本音楽の独自性を打ち出していった。同じ時代、精神医学の世界でも多くの医師たちがドイツ流の精神病理学や治療法を学び模倣していったが、そうした中で独自の神経質理論と治療法を打ち出していったのは森田正馬先生だけである。グローバルスタンダードと称してアメリカに従えの昨今であるが、芸術でも医療でも、日本独自の良いものを埋もらせておくのは実にもったいない。そのすばらしさを世界に向けて発信していきたいものである。

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2010年2月15日 (月)

神経質礼賛 517.続・減塩生活

私は4年ほど前から血圧がレッド・ゾーンに入った。毎日薬を飲むのには抵抗感があって、薬は飲まずに減塩生活(128話)を心がけてきた。朝食のパンにマーガリン類はつけない。麺類の汁はおいしくても残す。なるべく醤油は使わない。減塩単独で下げられるのは10mmHg程度と言われている。それだけではもはや限界だと観念して、昨年末から降圧剤を毎日半錠飲むことにした。血圧の薬は数種類あって、どれも一長一短である。よく使われるカルシウム拮抗薬は動悸や顔のほてり感が出やすい。ACE阻害薬では空咳が問題となる。最近は副作用の少ないARBがよく使われるが、薬価が高く、やや効果が弱い印象がある。私の場合もともと頻脈があるので、脈拍数を減らす作用のあるβブロッカーという種類の薬にした。βブロッカーは喘息がある人では禁忌である。この薬には思わぬ副作用(?)があって、人前で緊張して激しくドキドキしていたのがあまりしなくなって楽ではあるのだが、これでは「緊張感が足りない」という今までと逆の悩み(?)になっている。もっともそれを心配しているのだから神経質は健在である。

先週、デイケアの担当者から頼み込まれて、6年ぶりに音楽プログラムをやってみた。「ちょっと早いけど春のコンサート」ということでまず私が春にちなんだ曲を数曲弾き、その後で「おぼろ月夜」「花の街」「花」といった懐かしい歌を皆で歌う、というものだった。会場にはしっかりビデオカメラがセットされていて緊張していたのだろう。後で渡された写真を見ると赤面してヨッパライのようである。「緊張感が足りない」と心配するまでもない。

 減塩など生活上の注意は高血圧治療の基本である。薬を飲んでいるからいいや、ではなくこれ以上薬が増えないようにするためにも、神経質に減塩生活は続けていくつもりである。

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2010年2月12日 (金)

神経質礼賛 516.アップルビー教授の講演会

 田舎に住んでいると、専門医更新のためのポイントを取るのが大変で、東京の研修会に足を運ばなければならない。先週の日曜日、研修会として、イギリスの精神保健衛生行政の中心的人物であるルイス・アップルビー(Louis Appleby)教授の講演会が東大安田講堂であったので、聴講しに行った。

 どうせ行くならば他のこともしよう、と欲張るのが神経質人間の常である。銀座ヤマハの開店時刻に着くように新幹線に乗る。ヤマハ銀座店は有楽町で仮店舗営業が続いていたが、この日がその最終日で、今月末には銀座で新ビルでのオープンとなる。楽譜売場でチャイコフスキーの弦楽セレナーデの全パート譜とスコアのセットを見つけ、購入。今までは小さいスコアをめくりながら弾いていたのがこれからはラクになる。さらに、フィギュアスケート・ミュージック・コレクションという伴奏CD付ヴァイオリン譜を見つけた。フィギュア・スケートのBGMとして使われるようなクラシック曲をアレンジしたものだ。私がよく弾いているモンティの「チャルダッシュ」が入っていた。これまではピアノ伴奏譜をシンセサイザーソフトに自分で入力したもので伴奏させていて、ぎこちない感じがしていたが、これで解決である。メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲第一楽章短縮版も入っていて、これも楽しめそうだ。

 東大病院側の裏門(鉄門)から構内に入り、歩いていくと、すれ違った女性から「安田講堂はどちらですか?」と尋ねられた。広い構内で「迷子」になってしまったとのこと。私と同様、専門医のポイントを取るために地方から出てきた女医さんだった。ポイント難民は私だけではない。参加費は事前に振込だったにもかかわらず、例によって受付に手間取り、開始が15分遅れた。主催者の発表によれば参加者は400名で、今回は専門医だけでなく、一般公開のため、患者団体の方、政治家も参加しているという。イギリスで日本大使館の一等書記官を経験したことがある厚生労働省の武内和久氏がイギリスの医療制度・医療改革について説明した後、アップルビー教授の講演が始まった。ブレア政権の時代、精神医療に多額の予算を回してアウトリーチチーム・危機解決チーム・早期介入チームを作るとともに上級精神科医・精神保健看護師の数を増やした。その結果、入院数の減少・患者満足度の向上・就労の増加がみられたという。また自殺予防対策により(特に若年者の)自殺数が減少している(ちなみにイギリスでの自殺者は年間4500人程度で日本よりはるかに少ない)。薬物療法については、国立最適医療研究所(NICE)が治療の評価を行い、臨床ガイドラインを公表している。入院ケアの改善も図られ、70%が個室で男女別、明るい病棟となり、全面禁煙となっている。さらには、うつ病、認知症に対する取り組みも強化しているという。

 精神科の全面禁煙については質疑応答の場で患者さんの御家族という方から質問が出た。それに対してアップルビー教授は「イギリスでも当初は賛否両論があったが、うまくいっている。精神病患者さんは(種々の身体病について)ハイリスクなのだから禁煙がよい」という趣旨の回答をされていた。日本では精神科病院といえばタバコ臭いイメージがつきまとう。一般病院が全面禁煙化されつつあるのに、病院監査にやってきたお役人様は「患者さんの権利でいつでもタバコを吸えるように病院側で配慮しなさい」というとんでもないことをおっしゃる(29話:不可解な保健所の御指導)。その結果、身体合併症を増やして患者さん本人を苦しめ医療財政も圧迫するという単純なことすらおわかりにならないのである。喫煙によって肝臓内で代謝酵素誘導が起き、抗精神病薬のクリアランスが上昇して薬の効果が低下するので、より多量の薬が必要になるという問題もある。都道府県・保健所のお役人様方にぜひ聞いていただきたい内容だった。また、日本のように医療費を削減せよ、の一点張りでは医療はよくならない。関係者の努力や熱意だけでは限界がある。ムダはいけないが、イギリスのように十分な予算を医療に投入していく必要があると感じた。

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2010年2月10日 (水)

神経質礼賛 515.知らぬが仏

 もう十年以上前のことだ。冬のある日、外来に中年の新患がやってきた。髪は丸刈りである。「今まで関西に住んでいて、不眠症のため、睡眠薬をもらっていて、こちらに引っ越してきたので同じ薬を処方して欲しい」という。紹介状はないが、前の病院の診察券と薬の名前を書いたメモを持っていた。当時の病院は、外来診察室のすぐ外が駐車場だったから新しい患者さんがどんな車に乗って来ているか把握できた。この人はクラウンに乗ってきたので、もしや「組」の関係者ではないかと警戒した。探偵シャーロック・ホームズが依頼人をよく観察してどんな人かを推理するようなものだ。神経質の生かしどころである。仕事を尋ねると、産廃業者をしている、という。いろいろと生活歴を聞いているうち、「すみません! 実は隠していました。正直に言います。覚醒剤で捕まって服役したことがあります」と言い出した。「組」との関係を問うと、今はもうない、という。服用している睡眠薬は1日1錠だけであるし、現在は薬物乱用もない様子なので、メモにあった薬を2週間分処方した。2回目に受診した時には憔悴した様子で、「親しい友人が神戸の事件で疑いをかけられて自殺してショックを受けています」と述べていた。3回目は奥さんが来院して、「大阪の方へ出張中なので」とのことだった。それからしばらくして、新聞にこの人の写真入りの記事が出た。大阪のゴルフ場でピストルを持った二人組に現金240万円が奪われた事件の容疑者として逮捕されたのだった。二人組のもう一人は神戸のF銀行五億円強奪事件の参考人として取り調べを受けた翌日に自殺したという。

 ある意味、この人は正直に話してくれていたわけだ。騙されたわけではないが、「知らぬが仏」である。もしかすると診察時にピストルを所持していた可能性も否定できない。妻の言う「出張」というのが本職だったのだろう。幸いなことに近頃はこういった人にはお目にかかっていないが、油断は禁物である。身を守るのには神経質を生かすに限る。

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