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2006年2月24日 (金)

神経質礼賛 20.葛根湯医者vsSSRI医者

 江戸時代、どんな患者さんが来ても、葛根湯を与える医者がいたそうである。葛根湯とは、代表的な漢方薬で、カゼの初期症状の発熱・頭痛・鼻水・鼻閉・肩こりにはよく効く薬である。私もカゼ気味の時に飲むことはあるし、子供がカゼで発熱した時にはよく与えていた。現代のカゼ薬に比べれば作用・副作用ともマイルドであるが、成分の中にはエフェドリンが含まれているため交感神経を刺激し、不眠・動悸・下痢などの副作用がある。ただでさえお腹が弱い私の場合、下痢になりやすい。もし、胃腸の悪い人が葛根湯を飲んだら、逆効果になってしまうだろう。葛根湯医者はヤブ医者の典型として落語にも登場する。

 前回述べたように、今、精神科の世界で爆発的に処方が増えているのが、SSRIである。当初のうつ病治療にとどまらず、国内でもパニック障害、強迫性障害、社会不安障害の適応が認められ、従来診断の不安神経症・強迫神経症(対人恐怖を含む)といった神経症の大部分がSSRIの適応となった。そして、従来の抗うつ薬では使いにくかった、統合失調症の患者さんのうつ状態や陰性症状にも使用される例も増えている。製薬メーカーでは、医師向けのパンフレットで、強迫スペクトルを有する境界性人格障害や嗜癖(アルコール依存・ギャンブル依存など)にも有効であると宣伝している。抑うつ・不安・不眠と言えばSSRI、ということで、葛根湯医者ならぬSSRI医者が大量発生しそうである。

 日本より先にSSRIが発売されていたアメリカではプロザック(日本では未発売)が広く使われ、一般には性格改善剤というイメージまででき上がっている。自己主張のぶつかり合いのアメリカ社会では、引っ込み思案でいたら負け犬になってしまうので、この薬の需要が特に大きいのであろう。

 しかし、SSRIはいいことずくめの万能薬ではない。アメリカではプロザック服用中の人が、突然、不可解な自殺を遂げたり、衝動的な凶悪犯罪を起こしたりするケースが問題となり、製薬会社が訴えられることもあるようだ。日本でも全日空機ハイジャック・機長刺殺事件の裁判判決で、「犯行当時服用していた抗うつ剤は、攻撃性や興奮状態を出現させる副作用を伴う可能性があった」と薬の影響による犯行の可能性が示唆されている(東京地方裁判所:平成17323日判決)。そこまでいかなくても、普段の臨床経験の中で、強迫性障害のためSSRI服用中の人が、突然、易怒的となって、医療スタッフや他の患者さんとトラブルを起こすケースは時々経験している。服用する前には、とてもおとなしかった人がいきなり大爆発して驚くこともある。

 うつ病や重症の強迫性障害治療のためにSSRIを使うのならばともかく、軽度から中等度の神経症レベルの人に投与することには、私は慎重である。本人の努力なしに症状は楽になるのであるが、神経質な性格の良さも殺してしまうからである。いわんや「性格改善」目的のSSRI使用には反対である。

*SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor):選択的セロトニン再取り込み阻害剤*

 従来の抗うつ薬は、口渇・めまい・ふらつき・眠気・便秘などの副作用が出やすく、過量服薬による心毒性の問題があったが、SSRIでは副作用が軽く、心毒性の問題も少なく、うつ病以外にも、強迫性障害・パニック障害・社会不安障害の治療薬としても広く用いられるようになってきている。

 現在、日本国内で販売されているSSRIはとマレイン酸フルボキサミン(商品名デプロメール・ルボックス)と塩酸パロキセチン(商品名パキシル)の2剤である。

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