神経質礼賛 150.動中の工夫は静中に勝ること百千億倍
1月のある日曜日、仕事で東京に行く用事ができた。せっかく行くのだから少し早めに出かけて、有楽町駅で降り、出光美術館に立ち寄ることにした。日曜日の午前中ということで、駅から美術館への道は人通りも少なく、強い北風に向かって歩く。
「書のデザイン」というテーマの展示で、残念ながら今回は仙厓(89・90話参照)の書画の展示はなかった。展示の中で最も印象に残ったのは白隠恵鶴の「動中工夫勝静中百千億倍」(動中の工夫は静中に勝ること百千億倍)という書(個人蔵)である。動中の「中」の字が紙面中央に太く大きく長く書いてあり、強烈なインパクトがある。
森田正馬先生の講話の中に白隠禅師はたびたび登場する。釈迦・親鸞とともに、強迫観念を克服した神経質者として挙げられている。白隠禅師は子供の頃、寺でお経の講義を聞いて地獄の恐ろしさにとりつかれ、地獄の苦しみから解脱したいと出家したと伝えられている。このあたりは、子供の時に寺の地獄絵を見て、死の恐怖にさいなまれた森田先生と共通している。
禅の立場からの解釈はまた違ったものがあるかもしれないが、この言葉は神経質人間にピッタリだと思う。森田先生の数ある色紙の中にこの言葉がないのは不思議である。神経質はどうかすると考えるばかりで行動が伴わないことがある。どんな良い考えでも実際の行動に移さなければ価値はゼロに等しい。めんどうだな、嫌だな、心配だな、と思いながらもノロノロでも行動すれば、その価値はゼロに比べれば無限大である。だから森田療法では「行動本位」という指導になってくる。さらに、仕事でも勉強でも家事でも、実際の行動の中で創意工夫をこらして次の行動に結び付けていくことで、より価値を高めていくことができるのである。
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