神経質礼賛 250.かくあるべしといふ なほ虚偽たり あるがままにある 即ち真実なり
精神科で行う心理検査にエゴグラムというものがある。これは交流分析という自己分析の理論に基づくもので、人間には「親」、「大人」、「子供」の三つの自我状態があり、この三つの領域のバランスを見る検査である。実際の検査では、「親」はさらに父親的な状態CP(critical parent)と母親的状態NP(nurturing parent)、「子供」は自由な子供FC(free child)と言われたとおりに従う子供AC(adaptive child)に区分されるので、「大人」A(adult)と合わせて5種類の状態で分析することになる。エゴグラムによって自我状態に気づき、望ましい状態になるよう、行動パターンを修正していくことができる。ネット上では無料で検査できるサイトもあるので、興味のある方は一度試してみるとよいだろう。
神経質な人に多いパターンは高CP・低NPである。つまり、タテマエや規則にこだわり、頑固オヤジ的に「こうでなければいけない」と硬く考えがちで、母親的に「まあいいじゃない」と柔軟に対応しにくいのである。また、神経質ではFCが低くACが高くなりやすい。つまり、決められたことに従って行動し、あまり自己表出しないので社会適応は良い反面ストレスがたまりがちである。5つの自我状態はどれも高ければ良いわけではないし低ければ良いというわけでもない。
ちなみにヒステリー性格では、逆にFCが高く、ACが低く、勝手気ままで人の注意に従わない、というようになりがちで、中にはCPが低くて社会規範が守れない人もいて、いわば非行少年タイプ・社会不適応となりやすい。
以前、森田療法学会で、森田療法の前後でエゴグラムの変化を調べた研究発表があった。森田療法を受けるとCPが低くなりNPが高くなる、という結果だった。物事へのこだわりが軽くなり、「○○すべきだ」というような「すべき思考」が少なくなり、「まあいいや」「こんなものだろう」と許容する範囲が広くなるからなのだろう。「かくあるべし」から「あるがまま」に変化した結果と言えるだろう。
「あるがまま」は森田療法のキーワードとしてよく知られている。しかし、これは誤解されやすい言葉でもある。どうかすると「あるがまま」をお題目のように唱えているだけで行動がともなわない人がいる。森田療法は宗教ではないので、それでは効果がない。「あるがまま」になろう、自然体になろうとしてできるものではない。そうすること自体がすでに「かくあるべし」であり「虚偽」なのである。森田先生の言葉にあるように、あるがままに「する」とか「しよう」でなくあるがままに「ある」ことがポイントなのだ。不安や問題点を抱えながらも神経質を生かして行動していれば、それが「あるがまま」になっているのである。
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