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2008年6月27日 (金)

神経質礼賛 319.PTSD(1)

 今月の初め、精神科専門医の生涯教育研修会に参加した。場所は東京・お台場。時間に余裕を見て会場に行ったのだが、受付にはすでに長蛇の行列ができていて、混乱していた。専門医更新のポイントを取るために事務局が予想した人数を大幅に上回る専門医が殺到したためである。結局行列に並ぶこと50分。それでも事務局の不手際に文句を言う人がいないのは精神科医ならではだ。偉い大学教授も世界的な研究者もおとなしく待っている。まるで羊の群である。これが外科系だったら暴動(?)になりかねない。開始時刻を大幅に過ぎても受付が間に合わず、とりあえず全員入場して下さい、ということになったのだが、席が足りず、立っても入りきれない人まで出る始末で、ついにキレた人が事務局の不手際を糾弾し始め、会場は一時騒然となった。最終的には、事務局が謝罪の上、ある時刻を過ぎたら中途退出を認め退出時のチェックはしない、資料が全員に行き渡らないので後日参加者全員に郵送する、ということで何とか収まった。

トラブルはあったものの、講演自体はとても良い内容だった。その一つは「海外におけるPTSD治療ガイドラインの動向とわが国の今後の方向性」という演題だった。

 PTSD(Post-traumatic stress disorder:外傷後ストレス障害)とは大きな災害・事故・犯罪被害といった破局的な出来事に遭遇した後に起こるもので、恐怖体験を再現するようなフラッシュバックや悪夢、強い驚愕反応、不眠、無感覚と情動鈍麻などの症状が起きる。

 今回の講演によると、英国のガイドライン(2005年)では、治療にはトラウマ焦点化心理治療が第一選択であり、薬物療法を第一選択としてはいけないとしている。米国でもPTSD治療の効果評価委員会報告(2007)で、SSRIなどの抗うつ薬や抗不安薬などの薬物療法がPTSDに有効だという証拠はないとしている。つまり、ただ薬を出すだけでなくきちんとした精神療法・心理療法を行いなさい、ということである。しかしながら、トラウマ焦点化認知行動療法を習得するのは容易ではなく、専門家の養成には時間がかかる。そこで、すべての保健医療関係者が行えるPFA(Psychological First Aid::精神的ストレス反応への初期介入)というものが重要になってくる。これは事故・事件の被害者に安心感を与え、安定化を図り、一人で苦痛を抱え込まないようにし、種々の援助サービスにつなげていくものである。

 話が難しくなってしまったが、次回は具体的なことについて述べたい。

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