フォト
無料ブログはココログ

« 神経質礼賛 384.神経質の経済学 | トップページ | 神経質礼賛 386.引っ込み思案だった剣幸さん »

2009年1月12日 (月)

神経質礼賛 385.下されるもの

 森田正馬先生の診療所は一風変わっていた。入院中の患者さんたちが、作業をしながら外来診察の様子を見たり聞いたりすることが許されていた。今ならプライバシーの侵害として問題視されるだろうが、他の患者さんを通じての自己洞察という大きな効果があった。

さらに変わっていることに、診療所には「下されるもの」という貼り紙があったという。困るものとして、菓子・果物特にメロン・商品券、とあり、困らぬものとして、卵・鰹節・茶・缶詰・金・りんごとあった。森田先生は胃腸が弱くて下痢しやすいので菓子や果物は敬遠していたと言われる。一方、卵は大好物であったし、同じ食品でも鰹節・茶・缶詰・りんごは保存がきく。せっかくの厚意が無駄にならないので、合理的ではあるが、非常識という見方も出て当然である。この貼り紙は同業の医師たちの間で評判で陰口を叩かれたし、新聞でも「患者に贈り物を要求している」と酷評されたという。私の恩師・大原健士郎先生は森田先生と同じ土佐の御出身で、この貼り紙は土佐人特有のユーモアではないか、と解されている。

 森田先生は徹底したエコ生活をしておられて、お金の面でも無駄遣いせず堅実だった。貼り紙の「困らぬもの」に「金」と書いてあったが決してケチな守銭奴ではなく、気前よく郷里の小学校に講堂や遊具や図書や種々の備品を寄付している。村のために倶楽部という建物も寄付された。今の貨幣価値からすれば数千万円の金額に当たるだろう。森田先生を尊敬する藤村トヨ女史(東京女子体操音楽学校:現在の東京女子体育大学の創始者)から頼まれて無報酬で心理学の講義をしていたが、盆暮れの謝礼は全部郵便貯金にしていて藤村女史が留学する際にそのまま渡したというエピソードもある。なお、東京女子体育大学のホームページによれば、藤村女史は学生たちと寝食を共にし、禅の精神を取り入れた全人教育を行っていたとのことで、森田先生の治療法を教育に応用したのではないかと思う。また、熱海の旅館を買い取って森田旅館としたことを「森田は金儲けでけしからん」と非難する人もいたが、これも元患者の親族に泣きつかれて倒産寸前の旅館を買い取り、御自分の保養所として、退院患者の働き場として、さらには自分が死んだ後の遺族の生活を考えてのことだった。お金を大切にし、それが最大限人の役に立つように使われたということなのである。

« 神経質礼賛 384.神経質の経済学 | トップページ | 神経質礼賛 386.引っ込み思案だった剣幸さん »

コメント

 寒到来。先生お元気ですか。私は毎日ロードで寒風の中、通勤していますよ。お陰で自然順応し、風邪もひかない生活を送っています。寒さのお陰で月も星々も輝きを増します。

 森田診療所の玄関の壁には、患者さんから「もらって嬉しい物」と「もらって困るもの」のはり紙のお話しはとても面白く、昔、NHKテレビETV特集『今、あるがままにいきる』の放映の中でもユーモラスに紹介されていました。

 森田先生のエピソードは数多く残されていますね。お弟子さん達の土産には一々ケチをつけたそうですが、先生ならではのご説明からお弟子さん達も腹を立てるというよりも流石は先生だという風に感心しておられたようですね。

 お土産に熱帯魚を進呈した高弟は先生から君は私がこれを受け取り喜ぶと思ったのかねと痛烈に揶揄されたそうです。『熱帯魚は世話が大変だし、すぐに死ぬのではないか……』と仰ったそうですね。笑い。

 これから先の書き込みを楽しみにしています。いつの日か本にして出版されると良いですね。私もお役に立てられること嬉しく思いますよ。

万代博志様

 コメントいただきありがとうございます。寒さが厳しくなってきましたが、何のその、の御様子ですね。
 おっしゃるように、森田正馬先生のエピソードはいろいろあって面白いですね。どれも、一見、非常識な奇行のように見えても、先生の「種明かし」を聞けば、「なるほど」とわかる手品のようです。そして、同時に神経質者のための教育にもなっています。それも森田先生の魅力だと思います。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 神経質礼賛 384.神経質の経済学 | トップページ | 神経質礼賛 386.引っ込み思案だった剣幸さん »

最近のトラックバック

2018年11月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30