神経質礼賛 420.森田マサタケかショウマか
第25回森田療法学会(2007年11月)の一般演題で、神奈川歯大・澤野啓一先生が森田正馬先生の名前の読み方の問題を取り上げていた。森田先生が発表した論文に「Shoma」というローマ字表記があることを示し、「マサタケ」でなく「ショウマ」が正しい、ということを述べておられた。
また、実際に森田先生の治療を受け「森田療法の生き証人」と言われる井上常七さんも「マサタケなんて聞いたことがない。完全な誤りです。皆さんはショウマと言ってください」と述べておられる(生活の発見2009年4月号p.57)。
私の師匠である大原健士郎教授は「本名は「マサタケ」なのだから、精神科医たる君たちはそう呼ぶべきだ」と研修医たちを指導されていたので、大原門下生は全員「マサタケ」と呼んでいる。正式な読みが「マサタケ」であることは間違いない。これは森田先生御自身が患者さんたちの前で言っていることである。
「私の名は、本当はショウマでなく、マサタケと読みます。馬の一字名もあるが、その時はタケシと読みます。土佐には馬のつく名前が多いが、普通にはマといいます(白揚社:森田正馬全集第5巻p.673)」
この中で「本当は」という発言は、当時、誰もが「ショウマ」と呼んでいたことを意味する。患者さんたちの前で、本当はマサタケだ、と言っても、患者さんたちは「ショウマ先生」と呼び続けただろう。日本人男性の伝統的な4音節の名前は言いにくい。歌人で小倉百人一首の撰者である藤原定家も正式な「サダイエ」よりも「テイカ」と呼ばれることが多い。Ma-sa-ta-keよりSho-maの方が断然言いやすい。「ショウマ先生」という呼び方が定着してしまうと御本人もその方がよかったのだろう。学術論文も今ほどうるさくない時代だから、通称の「Shoma」とローマ字表記したのではないかと思う。
森田先生の弟子・鈴木知準先生も本名の「トモノリ」先生と呼ぶ人はまずいない。当然、「チジュン」先生である。本名「トモノリ」で通称「チジュン」先生なのである。「トモノリ」は間違いだとか「チジュン」と呼ぶのはおかしい、などと議論する人はいない。
「マサタケ」と「ショウマ」とどちらが正しいか白黒つけよ、というのはいかにも神経質らしい議論であるが、正式な読みが「マサタケ」で通称「ショウマ」というだけのことであって、どちらも正しい。学術上は「マサタケ」で、通常は「ショウマ」と呼んでいればよいのではないだろうか。そんなことを議論するよりも、森田療法の普及・発展に力を入れた方がよい。
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