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2010年2月22日 (月)

神経質礼賛 519.水中毒

 今はバンクーバー冬季オリンピックの話題でもちきりだが、冬のスポーツはスキーやスケートばかりではない。隠れたウインター・スポーツは駅伝やマラソンだと思う。たいていの高校では2月頃に全員参加のマラソン大会があって、その1-2ヶ月前から普段の体育の時間に校外を走るようになる。子供たちは大変だと言っている。私は走るのはまるで遅かったけれども、サッカーのように人とぶつかり合うわけではないし、がんばっていれば着々と前へ進んでいく喜びがあるので、長距離走は嫌いではなかった。

 長距離走で心配になるのが脱水である。私の世代では運動中に水を飲むな、と言われていた。今では脱水予防のために水分摂取が推奨されている。駅伝やマラソン大会の際には、中継所で水やスポーツドリンクを飲むのが常識となっている。ところが、この「常識」が水中毒(低ナトリウム血症)を起こす恐れがあることが指摘されるようになった。ボストンマラソンでレース後に行った採血では13%の人に低ナトリウム血症が認められたという報告もある。血液中のナトリウム濃度が低下すると、疲労感、頭痛、嘔吐、さらには意識障害が起り、重症の場合死亡することもある。スポーツドリンクはナトリウムを含んではいるものの濃度は血液中のナトリウム濃度に比べれば極めて低いため、スポーツドリンクを飲んでも塩分が不足して水中毒になりうる。

 水中毒というと聞きなれない方も多いと思う。精神科の病棟ではよくあることで、水中毒を一番多く診ているのは案外私のような精神科病院の勤務医かも知れない。精神科で用いる薬剤自体が水中毒の原因となりうると言われているし、「水を飲め」という幻聴に支配されて飲んでしまう場合や、薬の副作用の口渇のために飲みすぎる場合もあるし、強迫行為として多量に飲んでしまう場合もある。看護スタッフが患者さんのコップを預からせてもらうような対応をしても、水道の蛇口に口を当てて直接飲んでしまうので、過飲水がどうしても防げない場合には、やむなく隔離(行動制限)しなくてはならないこともある。

戦国時代、塩が不足して困っていた武田信玄にライバルの上杉謙信が塩を送ったという逸話は有名だ。20kg前後もある甲冑や武具を身に着けて戦場で激しく戦い続けたら大量に発汗するので、脱水状態でもいけないし、水分だけを補給したところで水中毒になってクラクラになって敵に討ち取られるなどということもあったのではないかと想像する。塩分なしには存分に戦えなかっただろう。

高血圧予防のためには減塩習慣が大切だけれども、マラソン大会のように激しく発汗する場合には水分とともに必要十分な塩分を補給することに神経を使う必要がある。

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コメント

先生こんにちは!「水中毒」という専門用語は初めて知りました。貴重な情報を本当にありがとうございました。スポーツをしている人は知っておく必要がありますね。

あいかわらず毎日ジムでたくさん運動をしています。適度な塩分を摂取する必要があるようですね。水は過度に飲んではいないと思うのですが・・・。これから少し注意してみます。「適量」というのが難しいです。

 コメントいただきありがとうございます。こちらの今日の最高気温は17℃。当分、春先取りの陽気が続きそうです(当然スギ花粉も猛威をふるいそうで戦々恐々です)。そちらは春の訪れはもう少し先になるでしょうか。

 水中毒という概念は多くの方々になじみがないと思います。電解質を含んでいるスポーツドリンクならばたくさん飲んでも問題ないと考えがちですので、ちょっと頭の片隅にでも置いていただければ幸いです。

四分先生、水と脳のこと、またお書き下さい。
もうすぐ87になる私の母が病院で医師に脱水を訴えながら
すぐに手当をしてもらえず、意識障害に陥ってしまいました。私のことが分からないし、会話もできません。
認知症と水分の関係についても最近新聞記事で読みました。現場にお詳しい四分先生に啓蒙していただきたいです。

たらふく様

 お母様の御病状は如何でしょうか。御心配のことと思います。少しでも早く回復されることをお祈りいたします。

 高齢者の方は脱水をきたしやすく、突然の発熱の原因が一時的な脱水であることもよくあります。
 また、稀ではありますが、服用している薬が原因で血中ナトリウム濃度が低下して意識障害をきたすこともあります。やはり、高齢者の診察に長じた医師に診てもらうのが一番です。

先生、すぐにお返事くださり有難うございます。
なんとも悔しいです。

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