フォト
無料ブログはココログ

« 神経質礼賛 514.嘘 | トップページ | 神経質礼賛 516.アップルビー教授の講演会 »

2010年2月10日 (水)

神経質礼賛 515.知らぬが仏

 もう十年以上前のことだ。冬のある日、外来に中年の新患がやってきた。髪は丸刈りである。「今まで関西に住んでいて、不眠症のため、睡眠薬をもらっていて、こちらに引っ越してきたので同じ薬を処方して欲しい」という。紹介状はないが、前の病院の診察券と薬の名前を書いたメモを持っていた。当時の病院は、外来診察室のすぐ外が駐車場だったから新しい患者さんがどんな車に乗って来ているか把握できた。この人はクラウンに乗ってきたので、もしや「組」の関係者ではないかと警戒した。探偵シャーロック・ホームズが依頼人をよく観察してどんな人かを推理するようなものだ。神経質の生かしどころである。仕事を尋ねると、産廃業者をしている、という。いろいろと生活歴を聞いているうち、「すみません! 実は隠していました。正直に言います。覚醒剤で捕まって服役したことがあります」と言い出した。「組」との関係を問うと、今はもうない、という。服用している睡眠薬は1日1錠だけであるし、現在は薬物乱用もない様子なので、メモにあった薬を2週間分処方した。2回目に受診した時には憔悴した様子で、「親しい友人が神戸の事件で疑いをかけられて自殺してショックを受けています」と述べていた。3回目は奥さんが来院して、「大阪の方へ出張中なので」とのことだった。それからしばらくして、新聞にこの人の写真入りの記事が出た。大阪のゴルフ場でピストルを持った二人組に現金240万円が奪われた事件の容疑者として逮捕されたのだった。二人組のもう一人は神戸のF銀行五億円強奪事件の参考人として取り調べを受けた翌日に自殺したという。

 ある意味、この人は正直に話してくれていたわけだ。騙されたわけではないが、「知らぬが仏」である。もしかすると診察時にピストルを所持していた可能性も否定できない。妻の言う「出張」というのが本職だったのだろう。幸いなことに近頃はこういった人にはお目にかかっていないが、油断は禁物である。身を守るのには神経質を生かすに限る。

« 神経質礼賛 514.嘘 | トップページ | 神経質礼賛 516.アップルビー教授の講演会 »

コメント

先生こんにちは!先生はいつも穏やかな表情で診察をされておりますが、医師として危険と隣合わせの現場にいらっしゃるのですね。

5億円強奪事件というのは「グリコ森永事件」との関連性も指摘されている事件でしょうか(一橋文哉氏の著作があります)。闇の市場では同じ人間が似たような犯行を繰り返しているということでしょう。

良い仕事じゃないなといつも思います。一攫千金のチャンスもあるでしょうが、生命をないがしろにして絶えず追われる身でしょう。前回の記事もそうですが、嘘もつき続けていれば、本人にとっての「現実」になります。暴力と殺傷と逃亡が「現実」ならば、何億円を手にしたところでなんの価値もないでしょうね。

コメントいただきありがとうございます。暖かい春が来るまで、もう少しの辛抱ですね。

おっしゃるように犯罪は割が合わないものです。ニセ札作りでは作るコスト(?)の方が高くつくはずです。割が合っては困ります。それにしても福徳銀行5億円強奪事件は時効になってしまった謎の多い事件で、それをテーマにした本も出ていますね。時効は逃げ得を勧めるようなもので、凶悪犯罪の時効は早く撤廃してほしいものです。

商売柄、油断禁物です。ほとんどの精神科医は殴られたり蹴られたりした経験があるはずです。私も外来診察中、なんの前触れもなく、精神遅滞の女性に顔を殴られてメガネが壊れたことがあります。殴った本人は嬉々としていました。この時の病院は内科のように医師の側面に患者さんが座る、というところで、いつでも襲われる危険がありました。現在勤務している病院は診察机を隔てて座るため、その危険性は少ない反面、正面で向き合うため、対人恐怖の人は緊張して話しにくいという面もあります。それでも体の大きな男性に机をひっくり返されたことがあって、この時にはビビリました。強制入院となった患者さんからは逆恨みされて「殺してやる!」と罵声をあびせられるのは日常茶飯事です。一般診療科のように感謝されることの少ない因果な商売です(笑)。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 神経質礼賛 514.嘘 | トップページ | 神経質礼賛 516.アップルビー教授の講演会 »

最近のトラックバック

2018年11月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30