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2010年3月 3日 (水)

神経質礼賛 522.前奏曲嬰ハ短調「鐘」

 バンクーバー・オリンピックの女子フィギュアスケートをTVで見た方は多いと思う。浅田真央選手の演技は実に見事だったけれども、ライバルのキム・ヨナ選手の演技は完璧としか言いようのないもので、残念ながら銀メダルになった。逆転優勝がかかったフリー演技では、ライバルが自分の直前に完璧な演技をした後だけにプレッシャーは大変なものだったと思う。浅田選手には金メダル、それを上回るキム選手にはプラチナメダルをあげたいところだ。この時の音楽はセルゲイ・ラフマニノフ(1873-1943)作曲の前奏曲嬰ハ短調「鐘」。同じラフマニノフ作曲のピアノ協奏曲第2番やパガニーニの主題による狂詩曲はロマンテイックな旋律ゆえフィギュアスケートの音楽としてよく使われている。前奏曲嬰ハ短調は重厚過ぎてあまり使われないのではないかと思う。

この前奏曲嬰ハ短調を初めて聴いたのは、高校生の時である。私の同級生が音楽室のピアノで弾いていた。大柄な彼がグランドピアノを力一杯弾くと、重い鐘の音が鳴り響くようにも聞こえた。体格に似合わずシャイな彼はこの曲が一番好きだと言っていた。この曲はラフマニノフの出世作で、初演の際には熱狂的な支持を得たと言われる。ラフマニノフ自身の演奏を記録したピアノロールから復元したCDが出ていて現代でも彼自身の演奏を楽しむことができる。心に迫ってくる名曲だけれども、私個人としては人が重圧に苦しみもがき救いを求める様子を表現しているようにも感じる。

ラフマニノフの人生は決して順風満帆ではなかった。貴族の家に生まれたが父の代に没落してついに破産し両親は離婚。音楽院では教師と対立。そして以前「神経質なラフマニノフ」(307話)で書いたように、交響曲第1番が酷評され、失恋や指揮者としての失敗も重なって「神経衰弱」にかかった。ニコライ・バジャーノフ著 伝記 ラフマニノフ(音楽之友社)にはそのあたりの状況が詳しく書かれている。アマチュアのヴィオラ奏者でもあった精神科医ダーリのもとに1日おきに1ヵ月半通った。暗示療法・説得療法とも言えるような治療で自信を取り戻し、最高傑作のピアノ協奏曲第2番を世に出すことになる。楽譜には「S・ラフマニノフ、協奏曲ハ短調 N・V・ダーリに捧ぐ」と書かれていた。

 重圧に苦しんで踏ん張った後にはそれなりの御褒美があるのではないだろうか。浅田真央選手も本人の言う通りでケガをしないように練習を重ねて次のオリンピックでさらなる活躍をしてくれるものと思う。

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