神経質礼賛 620.偉人なる者は凡
森田正馬先生が書かれた色紙に
偉人者凡
天才奇
(偉人なる者は凡 天才は奇なり)
というものがある。偉人と呼ばれる人は本を正せば平凡な人間であり、天才は元来、他の人が思いつかない奇抜で優れた才能の持ち主である、という意味である。神経症の画期的な治療法を編み出した森田先生はしばしば天才と言われる。しかし、先生はそれまで欧米で行われていた精神療法や薬物療法をすべてやり尽した上で、無効なものを捨てて有効なものを残して統合していき、森田療法ができあがっていった。森田正馬全集には神経症理論や治療法について同じような論文が何度も出てくるが、年代とともに少しずつ変遷しているのがよくわかる。試行錯誤しながら改良を積み重ねていったわけである。大原健士郎先生は森田先生の色紙を解説した著書『日々是好日』(白揚社)の中でこの色紙について、森田先生は「まず平凡な人間になれ」と教えている、と述べておられる。
私はこの色紙の実物を見たことがないが、三島森田病院には同じ昭和11年9月に書かれた似た内容の色紙がある。その色紙では、偉人は聖人に、天才は傑人になっている。
聖人者凡
傑人奇
(聖人なる者は凡 傑人は奇なり)
神経質人間は才能はあっても、天才や傑人のように一気に開花させることができない。今まで紹介してきた菅原道真、紫式部、徳川家康、白隠禅師、松下幸之助といった歴史に名を残した神経質人間を振り返ってみても、みな地道な努力の積み重ねで大輪の花を咲かせたのである。神経質人間の強みは粘り強さにある。時々へこたれながらも何とかがんばりが長続きする。そして平凡の積み重ねが非凡となるのだ。不遇にあえいでいてもガッカリすることはない。長い目で見れば、いつか報われることもある。
昭和9年7月15日の形外会(月に1回、森田先生のもとで行われた座談会)で会長の香取さん(貿易商)が閉会の挨拶で述べた〆の言葉を紹介しておこう。
「神経質は凡人にして、偉大です」
当ブログは開設してから5年になります。毎月10話ずつ、相変わらず文章だけの無愛想なスタイルで、しつこく同じようなことばかり書いていますが、これも神経質のなせるわざかもしれません。私の場合は偉大でない凡人、と言うよりただの変人です(笑)。凹みがちな神経質な方々のお役に立てれば幸いです。
皆様、どうぞ良いお年をお迎え下さい。 四分休符
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