神経質礼賛 720.安藤百福さんの名言
チキンラーメンを発明しラーメン博士とも呼ばれた日清食品の創業者・安藤百福さん(1910-2007)は数多くの名言を残している。神経質人間にとっても役立ちそうなものが多いので、いくつか紹介してみよう。
「明確な目標を持ったあとは執念だ。ひらめきも執念から生まれる」
「発明はひらめきから。ひらめきは執念から。執念なきものに発明はない。ひとつこころみてから捨てていく。考えて考えて考え抜け」
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神経質人間は、いろいろと考えるのは得意であるが、なかなか実際の行動に踏み出せない。しかし、一旦動き出せば今度はなかなか止まらないものである。最初はオズオズでもしだいに執念が燃え上がってくるものである。そうなればしめたもので、さらに創意工夫をこらして行動していけば、後から結果もついてくるのだ。
森田正馬先生の場合も当時「神経衰弱」と呼ばれた神経症の治療に、ありとあらゆる方法をやりつくし、ダメなものを捨てていき、森田療法ができあがっていったのである。そして、その療法を広めるためには、病身をおして各地で講演を行い、精神神経学会では精神分析学の丸田教授と激しくやりあった。執念のかたまりと言えるくらいに、生の欲望を完全燃焼させたのである。
「ぼくはタクシーでも構わない。ベンツでなくてはいけないと誰が言ったか。新幹線のグリーンに乗ることに何の意味があるのか。どこに乗ろうと目的地に着く時間は一緒じゃないか」
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小さな会社の社長もクリニックの院長もみなベンツなどの高級乗用車を買って経費で落とす。さらに儲かってくると、お抱え運転手を雇う。確かに、節税にはなるのだろけれども、これは無駄であり、気の緩みにもなる。タクシーを使った方がはるかに安上がりである。グリーン車でも着く時間は一緒というのはうなずける。質実剛健の神経質人間らしい発言である。
「経営者は一度借り入れの味を覚えると抜け出せなくなる。経営に緊張感がなくなり、そのツケは必ず自分に戻ってくる。企業にとって借金は麻薬のようなものである。高い山の後ろには、必ず深い谷が待ち受けている。順調な時ほど危機が訪れる。問題ないと考えること自体が問題である」
「私は事業に失敗して財産を失い、48歳から再出発した。60歳、70歳からでも新たな挑戦はある。人生に遅すぎるということはない。私の人生は波乱の連続だった。成功の喜びに浸る間もなく、何度も失意の底に突き落とされた。しかし、苦しい時の経験がいざというときに常識を超える力を発揮させてくれた」
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安藤さんは信用組合の理事長を頼まれて引き受け、その信用組合が倒産してその借金をすべてかぶった。無一文状態から、自宅裏庭に建てた小屋の中でインスタントラーメン開発に命を賭けて、ついに大ヒット商品のチキンラーメンを世に出した。神経質人間は失敗を忘れない。そして失敗を戒めとして、慢心せず、問題点を探して常に反省していくので、大きな失敗を予防できるのである。無借金経営にこだわり、毎日、自分を反省し続けたのは神経質人間の松下幸之助とも共通している。
安藤さんの言葉を「政治家や官僚は一度国債の味を覚えると抜け出せなくなる。国債は麻薬のようなものである」と書き換えても当たっているように思うのは私だけだろうか。
「時は命なり。時計の針は時間を刻んでいるのではない。自分の命を刻んでいるのだ。神はすべての人に1日24時間を与えられた。時間だけは金持ちにも貧乏人にも平等であるが、取り返しがつかない。最大のコストは時間である。24時間働くことは24時間会社にいることではない」
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時は金なり、とよく言われる。安藤さんのように「時は命なり」とまで言い切った人はいない。若いうちは命を刻んでいるという実感はないが、だんだん歳を取るにつれて「持ち時間」が残り少なくなっていることを意識するようになる。神経質人間としては、与えられた生を全うして、生き尽くしたい。
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