神経質礼賛 717.草食系のまなざし
10月11日付読売新聞夕刊「たしなみ」というページに作家の赤瀬川原平さんが「まなざしのマナー」「草食系ゆえ目をそらす」という面白い記事を書いておられた。赤瀬川さんは小学校2年生くらいの時、登校途中にいつもじーと見ているオバサンがいて怖い思いをしたという。学校では、人と話す時には相手の目を見ながら話しましょうと教えるが、じっと見ながら話したら緊張して疲れる、話しながら5秒くらいで目をそらしている自分は気が弱いのかもしれない、と語る赤瀬川さんも神経質人間のお仲間なのかもしれない。赤瀬川さんは欧米人と日本人、肉食動物と草食動物を比較して論じた上で、草食系の人は相手と話すにしても伏し目がちだったり、それとなく目をそらしながら話すのだろう、と分析し、見ることが表現としても受け取られるので、ものを見る目つきにもマナーがいる、と結論している。
森田正馬先生は、赤面恐怖の患者さんへの手紙の中で、人と相対した時の視線について次のように述べておられる。
人の視線と此方との相会ふ時には、自然の人は、普通、何思はず、必ず眼を他にそらせるものに候。之が普通の場合である。特に恋人や長上の人に対しては、それはそれは微妙に眼が他にそれるものに候。唯だ目下の者や小児に対しては、割合に静かに見つめる事が出来る。之に反して心なき小児、白痴、精神病者は訳なく人を見つめる。普通の人では、人を見つめる人は、気位高く、自我の強い傍若無人の変人のみに候。小生は我子や女中に対しても、其顔を見つめる事が出来ず、君等を診察する時でも、容易に其顔を見つめる事はなく、多くは伏目にて、其人の面と向はず候。之が小生の本来性にて、其処に小生の人に対する畏敬の情と小心さとがあり、人を冷視し圧倒せぬ態度があり候。小生も之が自分の持前なれば、強いて人と対抗し、故さらに強がる事は致さず、自ら独り守り居る態度にて候。小生は人を平気で見つめるやうな人は嫌ひに候。女などは特に人を見つめぬやうなつつましやかさがなければ、誠にいやなものに候。(白揚社:森田正馬全集 第2巻P.195-196)『神経衰弱及強迫観念の根治法より』
私も、人の目をじっと見つめて話すことはしない、というかできない。小心者の神経質人間であり、赤瀬川さんの言われる草食系でもある。相手の目を睨みつけるのは、迷惑行為を行う者に対してのみである。
触法行為があって措置入院となった易怒・興奮の激しい女性患者さんから、「あっ、目をそらした!先生、私の目を見て話して下さいよ!何かやましい心があるから目をそらすんでしょ!」と怒鳴られて、「じーと相手の目を見続けるのは恋人同士で話す時かケンカを売る時ですよ」と答えたことがある。
普段、外来診察室に患者さんが入ってくる時の様子はよく観察している。その時の表情やしぐさや家族との会話から得られる情報は大きい。患者さんが席に着くと、勤務先の病院は診察机を隔てて正面から患者さんと向き合う形なので、こちらもじーと患者さんの目を見続けていたら疲れるし、患者さんも見られていたら話しづらいだろう。ちらちら顔を見てはカルテに目をやり、ペンを走らせる、といった具合である。
学校で教えるように「相手の目を見て話さなくてはならない」に拘泥する必要もないように思う。
« 神経質礼賛 716.漢方薬がピンチ | トップページ | 神経質礼賛 718.秋の花粉症 »
先生、こんばんは。
小学校の頃から、相手の目を見てお話をしなさい、聞きなさい、そう教えられて来ました。
旦那様と真剣に話をする時も、ジッと目を見ています。話より目の力で説得したような感じでしょうか…
話をしていなくても、人の目線は気になります。何度となく見られると気分の良いものでは、ありません。目線も気を付けなければと思いました。
投稿: ヒロマンマ | 2011年10月24日 (月) 23時24分
ヒロマンマ様
コメントいただきありがとうございます。
そうですね。学校では相手の目を見て話すように教えます。全く見なければ「無視」ということになってしまいます。かといってじっと凝視し続けるのも考えものです。恋人同士ならば結構なことですけれど(笑)。
投稿: 四分休符 | 2011年10月24日 (月) 23時41分
先生 拝見させていただきました!
絶対に人の目を見て話す私は神経質とは程遠い人間なのですね^^
一方で相手から目を離されれば、あれ?この人自分を嫌いなのかしらと不安に思ったりします。
そのバランス≒中庸の位置がなかなか定まりませんね。一生かけて探していくものなのでしょうね。
投稿: akirakkyo | 2011年10月25日 (火) 02時16分
akirakkyo様
コメントいただきありがとうございます。
相手の目を見て話す習慣は文化的な背景(欧米と日本での違い)も影響しているかもしれませんね。物理的な距離とともに、まなざしの強さ(相手の目を見つめる割合)は、適度に取っていく必要があるでしょう。
電車に乗った時、向かい合う座席の人に見つめられたら気になります。自分の顔に何かついているのかな?ズボンのファスナーを締め忘れてないかな?などと心配になります(笑)。向かいの人の顔に視線を固定しないように、窓の外を見たり吊広告を見たり、と気を遣ってしまいます(笑)。
投稿: 四分休符 | 2011年10月25日 (火) 18時39分