神経質礼賛 728.難読の人名
時々、珍しい苗字の患者さんにお目にかかる。カルテにはすでにルビが付いているので読むことができるが、ルビが付いていなかったら絶対に読めないものがある。先日は、紹介状に書かれた医師名の苗字が「薬袋」だった。薬局で処方薬をもらう時の袋を薬袋と言い、普通の読みはクスリブクロ、業界関係者の読みはヤクタイである。でも人名だからクスリブクロ先生とかヤクタイ先生ではないだろうなあ、と思って改めて紹介状が入っていた封筒を見たら、「みない」とルビが付いていた。どう考えても「みない」とは読めないので、知りたがりの神経質ゆえ、ネットで調べてみた。
この苗字は山梨県にある苗字だそうだ。戦国時代、甲斐の国の大名・武田信玄が薬の袋を落としたところ、村人が拾って届けてくれた。薬を飲んでいるという弱味を握られたくない信玄は「中を見たか」と聞くと、村人は「見ない」と答えた。それを聞いた信玄はその村人に薬袋(みない)という姓を与えた、という言い伝えがあるということだ。村人は中を見たはずだが、「見た」と言ったら殺されるかも知れないから「見ない」と言ったのだろう。そして信玄が姓を与えたのは口止め料ということなのだろう。真偽のほどは定かではないが、こういう話を聞くと、記憶が定着するというものである。ただ不思議な読みだなあ、と思って調べなければすぐに忘れてしまって、しばらくすれば「何だったかな?」になってしまう。難読の人名・地名は調べればたいてい面白いエピソードが出てくる。
森田正馬先生の名前マサタケも普通は読めないだろう。通称のショウマは無理なく読める。森田先生は月1回患者さんが集まる座談会「形外会」の場で「私の名は、本当はショウマでなく、マサタケと読みます」(白揚社:森田正馬全集 第5巻p.673)と宣言されたが、それでも患者さんたちはショウマ先生と呼び続けていた。正馬先生の甥で養子となった森田秀俊先生(三島森田病院初代院長)もその奥様の貞子さん(現・三島森田病院理事長)もショウマと呼んでいる。正馬先生自身、言いやすいショウマでよしとしてしまった面もあったようだ。
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