神経質礼賛 739.誰も苦しみながら生きている
病院の2階通路を歩いていると窓の外でバタバタという激しい羽音を聞いたので何だろうと思った。見れば1階の屋根の上で2羽のハトが激しくもみあっている。大きい方が小さい方の頭や首などをつついて攻撃している。小さい方も必死に防戦し反撃しようとするが形勢が悪い。そのうち大きいハトは飛び立っていったのでほっとしたのだが、それから2日後に同じ所を通りかかった時に窓から外を見たら、小さいハトの死骸があった。かわいそうに、あの時の傷が致命傷になってしまったのだろう。
空を自由に飛び回り、地上に降りてきてのんびりエサを食べているハトを見かけると、何も苦労もなくていいなあ、と思いたくなるが、ハトも生きていくためには命がけなのである。天敵ばかりでなく同じ仲間から攻撃されることだってあるのだ。ハトだけでなく、どんな生き物でもそうだ。そして人間も同じである。森田正馬先生はよく「唯見れば 何の苦もなき 水鳥の 足にひまなき ものと知らずや」という句を引き合いに出して患者さんを指導された。神経質人間は自分ばかりが苦しく、他の人は何の苦もなく生きているという自己中心的な差別観で考えがちである。ところが、何の苦もなくフワフワと浮かんでいるような水鳥でさえ、見えないところで努力している、というわけだ。大原健士郎先生も、自分ばかりがつらいめに遭っているとこぼす患者さんの日記に「誰も苦しみながら生きている」とコメントされた。誰もが苦しい、という平等観で物事を見て、苦しいのは仕方なし、苦しみながらも行動する習慣がついてくれば、苦しみが苦しみではなくなってくる。そして、不安はあっても気にならなくなってくる。
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コメント
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誰もが苦しみながら生きているというのはまるで救いのない言葉です。いつか苦しみがなくなるのではないか、幸せな人間になれるのではないだろうかという希望は幻想に思えてきます。苦しみをあるがままに、という森田の言葉を支えに生きてきましたが疲れてきました、、、、
投稿: | 2011年12月26日 (月) 20時50分
幸せな人間になりたい・・・よりよく生きたいという生の欲望が強いのが神経質です。それは大いに結構なことです。ただし、苦しいことを苦しくないようにしようとはからう、不可能の努力をすれば強迫観念となってきます。理屈は置いておいて、苦しいままに行動してみる。そうしてみれば苦楽共存です。こころの置き所が変われば、苦しくもなり、楽しくもなります。
投稿: 四分休符 | 2011年12月26日 (月) 21時49分
先生、こんばんは。
苦しい山を越えると、嬉しかったり、楽しかったり、色々な事が待っていますね。
私も越えるまでに、かなり時間が必要でした。山の中腹で、こんなにも辛い物なのかと思いましたが、一緒に歩いてくれる人たちのお陰で、無事に一山越えました。まだ小さな山は沢山ありますが、コツコツ登って行こうと思いました。
生きる事は楽ではありませんが、楽しい事も沢山ありますね。先生、見守って下さってありがとうございます。
投稿: ヒロマンマ | 2011年12月28日 (水) 23時25分
12月3日、大阪で行われた岡本記念財団のメンタルヘルス・セミナーに参加した者です。
昨年鬱が再発し、ずっと苦しんでいましたが、最近になって体力が回復し、薬の助けを借りて気分も安定してきたので、ようやく森田の教えに沿った行動ができるようになりました。
それでも生活の中で、苦しいこと、心配なことは次々に起こってきます。逃げたくなる時もありますが、懸命にこらえて日々を送っています。
「生きていくことは苦しい。でも、時々楽しいことがあるから生きられる。」ある森田学習の先輩に言われた言葉が、ようやく身にしみてきました。
投稿: 坂の上の坂 | 2011年12月28日 (水) 23時27分
ヒロマンマ様
コメントいただきありがとうございます。
生きていくって、山登りに似ていますね。先が見えなくてつらい時もあるし、予期せず足を滑らせたりすることもあります。でも、時々、視界が開けるところでふっと一息ついて見渡すと、ここまで歩いてきてよかったなあ、と思うわけです。苦楽共存、楽あれば苦もありですね。つらい時にはスピードを落としてあせらずに一歩一歩進んでゆけばよいのではないでしょうか。
ヒロマンマさんはよい応援団にめぐまれていますね。
投稿: 四分休符 | 2011年12月29日 (木) 06時10分
坂の上の坂 様
コメントいただきありがとうございます。
「うつ」の時には真っ暗なトンネルに入ってしまったような感じがしますね。私も若い時にはうつ状態になって3か月で体重が12㎏落ちたことがありましたからよくわかります。しかし、トンネルには必ず出口があります。休養によって時間が経てば回復してきます。
森田療法はやみくもに働けというわけではありません。その時々の状態に合わせた行動をしていけばよいのです。うつからの回復期は、徐行運転から少しずつスピードを上げてみて、無理のないように動いていくことが大切です。一本調子に良くなるというよりは、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら少しずつ良くなっていくケースも多いのです。調子の良し悪しにあまり一喜一憂しないで、ボチボチやっていけば、必ず良くなっていきますよ。森田の先輩の言われたことはその通りだなあと思います。
投稿: 四分休符 | 2011年12月29日 (木) 06時23分