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2012年2月27日 (月)

神経質礼賛 760.近ごすい

 森田正馬全集の第5巻は形外会の記録であり、読んでいると森田先生の指導ぶりが生き生きと伝わってくる。参加者たちの様々なエピソードも興味深い。何度読み直しても新しい発見がある。森田療法の自助グループ・生活の発見会には各地にこの全集5巻を読む勉強会がある。

全集5巻はとても読みやすいものだが、聞きなれない言葉が一つある。「近ごすい」という形容詞である。この言葉は何か所か出てくるが、その一つを以下に示す。

 これまで、不潔恐怖の患者はよく私の妻が治したものですが、たいていは一度や二度は、妻に泣かされたものです。少し残酷なようですけれども泣かされないものは、どうも治り方が遅くて不完全のようです。つまり、よく完全に治るような人は、泣くばかり苦痛を忍んでも、必ず治したいという努力のある人です。(中略)

 この治ると治らないとは、ほんの紙一重でちょっとした気合の変化で心機一転するものです。つまり、最も大切な事は、真面目で真剣である事で、ズボラで近ごすくない事であります。(白揚社:森田正馬全集第5巻p.612

 前後関係からして、「近ごすい」とは「安直な」という意味だろうと思って読んでいた。森田正馬先生の養子・森田秀俊先生の奥さんである高知県御出身の森田貞子さん(三島森田病院理事長)にこの言葉について伺ってみると、「聞いたことはありますねえ。私は使ったことはありません。狡い(こすい:悪がしこい・ずるい の意)は悪い意味で使いますけれど」とのことであった。

 『生活の発見』誌2012年2月号p.35に高知県の会員の方が「高知じゃあ、標準語じゃきいに」とユーモアを交えて「考えが足りない」「短絡的」「すぐ結果を求める」ことだと書かれているので、私のカンもはずれてはいなかったようだ。

 先ほどの引用部分にあるように、症状を「近ごすく」つまり安直に治す方法はないのである。「不安障害にはSSRI」という時代になったけれども、薬物療法だけで症状がなくなってすべて解決、というわけにはいかない。薬には副作用もあるし、本来必要な不安を過度に抑えてしまっては「SSRI誘発性恐怖過少症(684)」というような問題も起こりうる。そして薬は神経質性格の良さを減じてしまう。私は薬物療法を否定するわけではなく、使う場合には必要最小量を慎重に処方するよう心掛けている。遠回りのようでも、苦しいながらに行動していき、症状を何とか消そうとするはからいごとをしないのが、本当は治療の近道なのである。

2012年2月24日 (金)

神経質礼賛 759.サンドペーパー(紙やすり)

 しばらく使っていなかった小型のテスター(電圧・電流・抵抗などを測るもの)を使おうと新しいボタン電池を入れてみたが全く動かない。表示が出ないのだ。おかしいなあ、壊れているはずはないのだがなあ、と神経質の眼は電池ボックスに向いた。よく見れば、電池との接点に青いサビがついている。そこで、目の一番細かいサンドペーパーを小さく切って接点のサビをこすって落とす。もう一度電池を入れてみるとバッチリである。

 デジカメや懐中電灯などによく使っている単三の充電池が使えなくなった。充電を始めてしばらくすると充電ランプが消えてしまい、充電されていない。もう寿命なのかなあ、と思いながらもマイナス側(平らな部分)を見ると少々錆びている。これまたサンドペーパーでこすって錆を落として充電し直すと、しっかり充電できた。捨ててしまわなくてよかった。

 サンドペーパーは小学校の理科あるいは(男性は)中学校の技術家庭科以来触ったことがない方が多いだろう。小学校では電磁石やモーターを作るのにエナメル線を鉄芯に巻きつけ、その端の絶縁部分をサンドペーパーでこすって削り取り、電気が流れるようにしたはずである。中学校ではブリキ板をハンダ付する際にサンドペーパーで接着面の錆を落としていた。日常生活の中でサンドペーパーの出番はあまりなさそうであるが、前述のような場面で活躍の場がある。1枚(数十円)買って小さく切って使っていけば何年ももちそうである。表面を傷つけないように目が一番細かいものを買うとよいだろう。これも神経質の便利アイテムだ。電池を使った機器や充電池がサンドペーパーで生き返るならば安いものである。

2012年2月20日 (月)

神経質礼賛 758.甘酒

 2月後半に入ってからもまだまだ寒い日が続いている。寒い季節の飲物といえばやはり甘酒だろう。冷えた体が芯から温まってくる。ことにおろしショウガが加えられていると一層体がポカポカになる。だから私はてっきり冬の飲み物とばかり思っていたが、夏バテ予防・暑気払いとして古くから飲まれていて、俳句の世界では夏の季語だと知った。

甘酒には麹から作るものと酒粕から作るものと2種類ある。有名な寺社の境内や甘味処で供されるのは麹から作られるもので、たいてい漬物が添えてあって、それをつまみながらいただく。それに対して家庭で手軽に味わえるのは酒粕から作る甘酒である。私の実家の近くには「忠正」の名で知られた吉屋酒造という江戸時代中期から続く造り酒屋があって、そこで買った酒粕はスーパーで売られているものよりもはるかに香りがよく、おいしい甘酒ができた。残念ながらこの酒造所は後継者難から廃業してしまった(394話)ので、今となっては懐かしい味を愉しむことはできない。跡地はステーキハウスのチェーン店となっている。

最近、女性たちの間で酒粕の美肌効果が注目され、酒粕化粧水・酒粕石鹸・酒粕パックなどが話題になって、ちょっとしたブームになっているそうである。酒粕を使った創作料理もよくTV番組で紹介されている。酒粕にはアミノ酸、食物繊維、ビタミンB群、ミネラルが豊富に含まれているし、加熱しなければ酵母も生きているからそのまま食べれば健康食である。ただし酒粕をそのまま食べた場合、アルコール分がビールの2倍近い約8%も含まれているため、「酒気帯び」状態になってしまうから注意が必要である。

先日、スーパーに甘酒ソフトキャンディというものがあったので買ってみた。北海道・網走の製菓会社で作っているもので、札幌の千歳鶴という酒造所の吟醸酒粕を使っているという。まろやかな甘さと懐かしい風味が口いっぱいに広がってきてちょっぴりシアワセな気分が味わえる。これで神経質も一休みである。

2012年2月17日 (金)

神経質礼賛 757.アップとルーズ

 

 小学校4年国語の教科書に「アップとルーズで伝える」(NHK解説委員の中谷日出氏著)という教材があるのだそうだ。同じシーンでもアップ映像とルーズ映像では伝えられることが異なり、情報の送り手が伝えたいことは何かを考えて使い分けされている。そうした説明文を読んで、「写真と文章で説明しよう~リーフレットをつくろう~」という単元だ。デジカメで手軽に写真が撮れて、ワープロソフトを利用して容易に写真入りのリーフレットが作成できるようになった現代らしい教材である。

 

 「アップ」はズームレンズを望遠にして拡大して写すから対象となる人物や物の一部が強調されるので、人物の顔の表情を強調したり、その物の注目点を詳細に表現したりすることができる。「ルーズ」は逆に広角にして写すので、全体像を見たり他の人物や物との関係を表現したりすることができる。これらの技法、特に「アップ」は使いようによっては偏った視点に立った情報になってしまうおそれもある。見る側もアップで切り取られた偏った情報になっていないか、情報を鵜呑みにしないで全体を見渡して評価する力が求められるだろう。

 

 神経質の人はともすれば「アップ」で物事を見過ぎる傾向がある。しかも高性能望遠レンズによる超アップ映像になりがちだ。対象をクローズアップし過ぎれば、どうしてもアラが見えてくるものであり、悪いところ探しにつながりやすい。森田療法を受けている人の日記を見ると、特に強迫的な人の場合、ごく些細な事にもこだわって書こうとしていて、後から追加したり書き直したりしていて、欄外にまで書き込みがあって、読むのに骨が折れる。全体が見えていないのである。全体のバランスを考えればこんなふうにはならないはずだ。症状の記述ともなればさらに念が入る。時には、あえて「ルーズ」で全体を見ることも大切である。広角レンズで全体像をとらえれば、こだわっていることが実は取るに足りないことだと気づくはずである。神経質には「アップ」だけに偏らない「ルーズ」の視点が必要である。

 

2012年2月15日 (水)

神経質礼賛 756.うつ病治療最前線

 2月12日(日)夜のNHKスペシャル「ここまで来た!うつ病治療」は御覧になった方も多いことと思う。まずは経頭蓋磁気刺激(TMS)から始まった。長年うつ病のために薬物療法を受けていてなかなか良くならない人がこの治療を受けるとわずか2日で食欲が出始め、毎日繰り返し治療を受けると意欲が出て笑顔が見られるようになってくるという実例が示された。前頭前皮質(PFC)のDLPFCという部位を刺激することで思考や意欲を改善し、さらに扁桃体の過活動を抑制して不安を改善するものと考えられているとのことである。また、難治性のうつ病に対して、脳の25野という部分に電極を入れて皮下に埋め込んだ電気刺激装置で刺激することでDLPFCを活性化し扁桃体の活動を抑制して劇的に症状を改善するという治療も紹介されていた。これらの治療法はアメリカで行われていて、日本ではまだ研究段階である。日本で先進医療として行われ始めたのは近赤外線スペクトロピー(NIRS)による診断法であり、これについては当ブログでも平成21年6月の記事(436話)に書いている。番組では、今までうつ病と診断されて長いことSSRIを飲み続けて良くならなかった人が双極性障害(躁うつ病)と診断されて薬を変えてもらったら良くなったという例を紹介していた。そして、近年、精神科診断の主流となっているアメリカ精神医学会による診断基準DSM(WHOによる診断基準ICDもほぼ同様)による安易なうつ病診断が問題となっていることについても少し触れていた。最後に薬を使わない認知行動療法の効果を脳科学的に示していた。

 

 TMSの劇的な著効例をいきなり見せつけられると、その治療を受けてみたいと思われたり、日本の治療は遅れていると憤慨されたりする方もいるだろう。しかし、いつも今回の番組のように著効するわけではない。TMSとて万能ではなく無効例もある。それに以前にも書いたが、うつ病はそもそも自然治癒しうる病気であるし、プラセボ(偽薬)がよく効く。先進機器を使って脳に直接働きかける治療だと言われたら、仮に磁気刺激をしなくても機械をあてて疑似作動音を聞くだけで大きなプラセボ効果が出そうである。リスクも皆無ではない。てんかん発作を誘発するリスクもあるし、ターゲットとしている部位から実際の刺激部位がわずかにそれて何らかの悪影響が出る可能性もある。

 日本でもいくつかの大学病院などで行われているNIRSは、課題を与えた時の脳血流変化パターンから病気を診断するものである。しかし、100%正確に診断できるわけではないだろう(詐病が疑われる犯罪者の精神鑑定には役立ちそうな気はするが)。また、精神疾患は長期的に経過を追わないと正確な診断ができないことも少なくない。例えば、当初はうつ病とか神経症(不安障害)としての症状しかみられなかったのが何年かして統合失調症の症状が出てくることがある。その前駆症状の段階でNIRSは統合失調症と診断できるのだろうか。いずれにせよ、NIRSが民間の中小の精神科病院やクリニックに導入されるのはまだ先のことだろう。

最後の認知行動療法の効果を脳科学的に証明したものは、森田療法でも同じような結果が出るのではないかと思う。森田療法で不安を相手にしない生活態度を続けていくことにより扁桃体の過活動がおさまってくることは想像できよう。

今回の番組ではうつ病の新しい治療法や診断法をわかりやすく紹介するということでは良いと思うが、そのすばらしさだけを過度に強調している点が少々気になった。

2012年2月13日 (月)

神経質礼賛 755.今年の花粉対策

 花粉症持ちの私にはこれからつらい季節がやってくる。スギ花粉だけでなくヒノキ花粉にも反応してしまうため、2月から5月中旬までは症状に悩まされることになる。今年は東日本のスギ花粉は昨年よりは少ないと予測されているのがちょっとうれしい。とはいえ油断は禁物。神経質に対策を続けていくつもりだ。

 

 昨年末からインフルエンザ予防を兼ねて外出時にはマスクをしている。そして1月の下旬から第2世代抗ヒスタミン剤を半錠飲み始めている。症状が出てきたら1錠に増やす予定だ。今飲んでいるのはザイザルという薬である。この薬は昨年発売となり、1年経過したため長期処方が可能になっている。同じメーカーから発売されていたジルテックを改良したものだ。個人差があるけれど、私はジルテックを飲むと強烈な眠気が出た。ジルテックの主成分セチリジンの活性体のうち、光学異性体(化学構造式は同じだが立体構造が鏡像関係にあるもの)の一方D体は効果が不安定なので、効果が安定したL体だけを選んで薬にしたものがザイザルだという。やはり少し眠くはなるがジルテックよりはかなりマシである。今年はこのザイザルで押してみるつもりだ。

 

 眠気の副作用という点に関して、実際に服用してみた個人的印象としては、少ない順にアレジオン<アレグラタリオン≒クラリチン≒エバステル<ザイザル<ジルテック≒ザジテン<第1世代抗ヒスタミン剤といったところだ。アレジオンは第2世代抗ヒスタミンの中では早い時期に出たもので、副作用が少なく、気管支喘息にも適応がある反面、薬価が高く、効果が少し弱めという難点があった。今年からはこのアレジオンがいわゆるOTC医薬品の第1類医薬品「アレジオン10」として処方箋なしに薬局で買える(エスエス製薬:101280円、201980円)ようになったので、忙しくて医療機関にかかれない人には朗報だ。

 

 最近の話題としては、花粉症の根本治療としてアレルゲンを舌下投与する舌下減感作療法が注目されている。週1回アレルゲンを注射する減感作療法は以前から行われているが、1年2年と通院を続けるのが困難でドロップアウトしがちだった。舌下減感作療法ならば簡便に自宅でできるから長続きしそうだ。施行しているのはまだ一部の大学病院や研究所に限られていて保険適用にはなっていない。この治療法で完治できれば薬とはサヨナラになるだろう。

2012年2月10日 (金)

神経質礼賛 754.偽セキュリティソフト

 今年の冬は雨が少ないこともあって小学生を中心にインフルエンザが大流行している。病院職員が自宅で自分の子供からうつされることもある。ワクチンを打っていても完全に防げるわけではない。どこの病院も抵抗力が弱い高齢入院患者を多数抱えているので院内感染には神経を使っている。

 一方、パソコンの世界でもコンピュータウイルスが猛威をふるっている。かつてはアヤシゲなサイトの画像や動画にウイルスが仕組まれている、ということがあったが、昨今は政府や公共機関のホームページでさえもハッカーに狙われてウイルス感染する時代である。

 月曜日の夜、子供がユーチューブでお笑い系の動画を見ていたところSecurity Shieldと称するセキュリティソフトのような画面が出て操作ができなくなって助けを求めてきた。入金を要求するメッセージもある。私のパソコンでそれに関する情報を検索して集めてみたところ、偽セキュリティソフトの一種であり、一昨年から似たようなものが出回っているらしい。実際ウイルスチェックソフトでは検知できなかった。ウイルスチェックソフトにひっかからないように次々と変化させたものがバラまかれているため、ウイルスの定義ファイル更新が追いつかないのだそうである。まるでインフルエンザウイルスの変異株みたいで実にたちが悪い。何種類か駆除ソフトがあるようだが、それとてどれだけ信用できるだろうか。さらに検索しているうちに今度は私のパソコンが別の偽セキュリティソフトにやられてしまった。対策を装った記事にウイルスを仕込んであったのだろう。二重遭難である。

 ウイルスにやられた時は再セットアップというのが私の方針である。駆除ソフトと称するものにさらに悪質なウイルスが仕組まれていないとも限らないし、完全に駆除できる保証はないからだ。神経質ゆえ普段から必要なファイルはおおむねバックアップしている。しかし、ここ1カ月ばかりのメールは犠牲になった。再セットアップをして種々の設定し直しや普段使うソフトのインストールに半日から一日かかる。それでも急がばまわれ、である。念のためこの記事は別のパソコンからアップしました。

2012年2月 6日 (月)

神経質礼賛 753.漢方入門セミナー

 一昨日は午後から県の精神保健指定医会議に出席し、昨日は一日、メーカー主催の漢方入門セミナーに参加した。指定医会議はいつから始まったか覚えていないが、年1回の集まりで年度末の公共工事よろしく2月にある。以前は行政側に批判的意見を述べる院長もいたが、現在では質問はできないようにしているため、会議とは名ばかりで、行政側の説明と厚生労働省関係の役人医師の講演を聞くだけである。私は何度かアンケートに「遠方から参加する人は大変であり、このIT時代、メールか動画を流せば無駄なガソリン代もかからないではないか」と意見を書いたが、反応もないので、バカバカしくてアンケートに記入するのもやめている。

昨日の漢方入門セミナーは大変ためになった。最近は大学医学科でも漢方薬の講義をするようになっているらしいが、私の医学生時代にはそんな講義は全くなかった。多くの医師たちは臨床の場で患者さんを通して学んでいたわけである。今回の講師は心療内科を専門とする開業医の先生だった。午前中は漢方の考え方と診断法ということで、「気血水」「陰陽」「虚実」といった病理観、「瀉」と「補」という治療法について学んだ。やはり本で読んだだけではわかりにくいが講義してもらうと理解しやすい。午後は具体的な症例を通して「メンタル・心療内科領域の漢方治療」「痛みと漢方治療」というテーマでとても興味深い内容で時間が短く感じられた。

西洋医学では統計的有効性が追求されるのに対し、漢方は個人差を重視した医学ということになる。そして広義の漢方には鍼灸はもちろん「食養」「気功」「太極拳」も含まれる。まだ病態が軽度で可逆的つまり自然治癒力で回復しうる段階で手当てしたり病気になることを予防したりする考え方は西洋医学にない部分である。客観的な症状が出たらそれを手術や薬で取り去ればよし、という西洋医学的発想だけでは限界があるしコストもかかる。

森田療法も漢方と同様、東洋的思想をバックグランドに持っていて、病気の部分を取り去るというよりも、その人の健康的な部分を伸ばして自然治癒力を引き出す治療法であり、さらにはよりよい生き方を身につけるという面も持ち合わせている。しかも薬物療法に比べれば低コストであり、本で勉強してそれを実践して自分で治す人もいる。うつ病の人を見つけ出して医療機関にかかることをすすめる行政の対応は、それはそれで自殺予防の意味はあるだろうけれども、パーソナリティの問題に起因するケースや職場の問題に起因するケース、さらには健康人にみられる軽いうつ状態にまで薬物療法が行われるという「副作用」もある。そして医療費をどんどん押し上げる一因となる。西洋医学的発想だけの保健行政には無理があるのではないだろうか。

2012年2月 3日 (金)

神経質礼賛 752.ヒステリーに対する森田療法

 前回書いた馬場夫人は森田先生の論文の中に症例として登場する。「神経質及神経衰弱症の療法」の「精神過敏症の神経質」という項に第三十五例神経質治療例として記載がある(白揚社:森田正馬全集第1p.466-473)。以下に要約する。

26歳女性。1年ほど前に発熱があって肺尖カタル(結核)を疑われて以来、食欲不振が出現して胃腸病院に通院。心窩部に球状のものを感じる。3歳の子供を実家に預けて養生したが症状は悪化するばかり。神経病院で電気療法や注射療法を受けるも改善せず、不眠、意欲低下、聴覚過敏、幻視(神経病院で自殺した患者が見える)もみられ、森田先生の診療所を受診した。森田先生は肺尖カタルでも胃腸病でも神経衰弱でもなく、神経質であると診断した。そして、次のように指示した。8,9時間以上は臥床しないこと、眠れても眠れなくてもよいから眠ろうと工夫しないこと、昼寝をしないこと、自分の容体を家族に言わないこと、保養のための外出はしないこと、昼間はなるべく庭に出て気が向けば何をやってもよい、養生のために働いてはいけない、家族に腹が立っても決して言語や行動にあらわさないこと、夫に不満がある時はこれを言わずに詳しく記録しておき後日夫と争う時の材料を集める、間食はしない、食欲がない時は1食抜いて良い、聴覚過敏は我慢してその音を聴き入りそれに調子を合わせる、幻視が見えたらその顔・髪・服装等をよく観察する、などである。そして日記をつけさせ、週1回外来受診とし、「1カ月で必ず治るから、それまでは疑わしくても苦しくても、たとえ自殺したいと思っても、その間は私に任せるつもりで我慢して、その日の来るのを待てばよい」と告げた。そんなことで治るのだろうか、と疑いながらも、もし1カ月で治らなければ診療所に座り込んで身体を弁償しろと訴えるつもりで先生の指示を守って行動していった。論文にはほぼ毎日の日記の記載が掲載されている。気分の浮き沈みはあるし、夫にも怒りをぶつけたくなりそうになりながらも、行動量が徐々に増えていき、家事がこなせるようになり、食欲も改善した。1カ月後の日記には「私が苦しい苦しいと言って他の人を怨んだり、世を悲観したりしながら生きていたのは、皆、我(が)が強かったからだと思う」と自己洞察した記載が見られる。

 さらに1カ月余り後には実家に預けていた子供を引き取り、ますます健康的な生活になっていった。前回書いたように、月1回の形外会にはよく参加して、その発言の記録も残っている。

 森田先生は神経症を大人の人格を持った(森田)神経質と子供っぽい人格を持ったヒステリーに大別し、特殊療法(森田療法)は神経質に著効するが、ヒステリーには効果がないとしていた。しかし、この例は感情過敏、他罰的であり、幻視もみられているとあっては、森田神経質とは考えにくく、うつ状態を伴うヒステリーと考えるのが妥当だと思われる。治療者に心酔して盲従するような人ならば一過性によくなることもありうるけれども、この例では治療者を疑ってかかり「治らなかったら先生に責任をとってもらおう」という調子でまるきり違う。しかも週1回の外来通院・日記指導により1カ月で治しているのだから著効例といってよい。さらには人格も円満に変化している。

ヒステリーであってもやりようによっては森田療法が奏効する可能性はある。さらには現代のいわゆる「新型うつ病」「ディスチミア親和型」に対しても、森田先生が指示した内容は応用できる可能性があるものと思われる。

2012年2月 2日 (木)

神経質礼賛 751.時が解決してくれる

 森田正馬先生の治療を受けた人が月1回集まる形外会の記録が森田正馬全集第5巻に収録されている。多くは先生の前での座談会だが、時にはピクニックや旅行に出かけたり、落語家を呼んだり皆でゲームや踊りを楽しむこともあった。その中に子供連れで参加していた女性、馬場夫人がいた。治療経過については次回に述べるが、今回は形外会での発言を紹介しよう。

(馬場夫人) 大正十年に、外来で、日記を持って、日曜ごとに二ヵ月ばかり通い、病気が治るとともに、大変いろいろ人生について教えられ、いつもいつも先生のお蔭を考えない事はありません。昨年良人(おっと)に急に亡くなられたとき、他の人たちから、さまざまに慰められたとき、私は「あきらめられぬものですが、あきらめられないままに、時が解決してくれるのです」といいました。以前ならば、この人たちのいうように、どうしたら、あきらめられるか、どうすれば、この悲しみを忘れる事ができるかと、さまざまに苦しんだ事でしょうかれども、先生のお蔭で、そんな考えはなくなり、大変らくで、悲しみや苦痛も、一番早くよくなるかと思ひます。

(森田先生) この心境が、すなわち、「なりきる」ことで全治であります。 (白揚社:森田正馬全集第5巻 p.285

 馬場夫人は、森田先生の指導で症状が良くなったばかりでなく、生き方をも学んだと言えるだろう。前回の「求不可得」の姿勢を身に付けて、夫の急死という大きなショックを「時が解決してくれる」という受け止め方で乗り越えることができたのである。

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