神経質礼賛 768.早期離職
19日、政府の雇用戦略対話で、大卒者の2人に1人、高卒の3人に2人が、無職や非正規雇用だったり、3年以内に仕事を辞めたりしている、という報告があったと新聞に書かれていた。正規雇用60万人のうち3分の1の20万人が3年以内に辞めているという。
政府は早期退職の原因は雇用のミスマッチにあるとし、本人に合った中小企業に就職させればいいようなことを言っているが、問題はそれだけではないはずだ。ゆとり教育で小学校の勉強がわからないまま中学生になり、高校生になり、AO入試やら推薦入試やらで、知識もなく勉強する習慣もない大学生を大量に作り出してきたことにも問題があるだろう。企業の採用担当者たちの間では大学生の学力の大幅低下が言われている。これでは社会に出て通用するはずはない。さらに会社の入社式に母親がついて来るという過保護ぶりでは社会人として使い物にならない。それから、評論家たちが指摘しているように、経済状況の悪化により、企業側も目先の成果主義に傾いているため、時間をかけて社員を育てていく余裕がなくなっていることもあるだろう。
かくいう私も最初の大学を卒業して入社した会社を4年間で辞めて医大に入学しているから偉そうなことは言えないけれども、まだ業務の能力が付かず、退職金がもらえない3年以内の早期離職はもったいないと思う。かつて私が入った会社は大卒者を大量採用していたが、大半は営業社員であり、販売ノルマが厳しくて辞める人が多く、社員の間では半減期1年と言われていた。当時の社長は工学部出身で先進技術に強い興味を持ち有能な技術系社員を育てようとしていたけれども、あとの役員のほとんどが文系出身、ハッタリと要領で出世したような人たちばかりだったから技術系に対する理解はまるでなかった。だから、全社一斉訪販日なんていうのもあって、システム開発に従事した私も先輩と一緒に飛び込みセールスに回ったことがあった。今にして思えば対人恐怖の私には治療的だったと言えるかもしれない。「アホらしくてやってられんわ!」と口癖のように言っていた先輩は大手電機メーカーに転職していった。他にも優秀な先輩たちが次々と辞めていった。私は何度も辞めようと思いながらも「お金をもらって勉強しているのだ」と自分に言い聞かせて働き続けた。情報処理技術者試験は毎年受けて、第Ⅰ種まで合格していつでも転職できるように準備した。会社に辞表を出したのは、医大受験日の有給休暇を申請する際だった。そして、ささやかな退職金は医大の入学金に充てることができたし、従業員持株会の解約金も予想外にあって助かった。
4月になると、精神科外来には、職場で不適応を起こした新入社員たちがやってくる。私は四月病(299話)と呼んでいる。薬やカウンセリングで治るものではない。本当にエネルギーが枯渇したうつ病に陥っているとか会社の待遇があまりにも理不尽であるならともかく、多くの場合は嫌でもとりあえず今日1日何とか踏ん張って仕事に行く、それを繰り返して自分の力でつらいところを乗り越えてストレスに対する耐力を獲得していくのが本当の処方箋ではないだろうか。
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先生、こんばんは。
「四月病」とは、おもしろい言い方ですね。せめて五月病にしてもらいたいものである、という先生のお嘆きにまったく同感です。この就職難の時代に正規雇用されることのありがたさをもう少し感じてほしいものです。ごく稀にではありますが、私は就職する学生さんにセミナーをすることがあります。そこでは、早期離職の防止に少しでも資すればと、年金・健康保険・労災といった社会保険の仕組みや労働法の観点から雇用されることの恩恵・利点を話し、ちょっとイヤな事があったからといって、おもしろくないからいって短気を起こさずに、本当にやりたい何か、あるいは次の仕事が見つかるまでは割りきって続ける―そのくらい戦略的に自分の人生を切り開いていってほしいと訴えています。
仕事が好きなので、私も頑張ります。せっかく就いた仕事だもの、神経症でもなんでも絶対離さないぞ。自分ののろまなこと・意志薄弱さに時々嫌気がさしますが、自分を叱咤しつつもそういった感情もあるがままに受け入れて進んで行きたいです。そして、いつか牡丹餅以上の何かを頂けたらとても嬉しい。
投稿: teardrops | 2012年3月23日 (金) 21時22分
teardrops様
コメントいただきありがとうございます。
正規雇用のありがたみを学生さんたちに説いておられるのですね。早期離職予防に大きく貢献されていますね。すばらしいことです。
どこの職場でも嫌な人はいるし、思ったような仕事はできないものです。しかし、やっているうちに仕事の面白みは出てきますし、人間関係もどうにか何とかなっていくものです。
神経質人間は新しい環境に順応するまで時間がかかりますが、最初の難所を乗り越えれば持ち前の粘り強さで長続きするように思います。
投稿: 四分休符 | 2012年3月23日 (金) 23時26分
先生、こんばんは。
わが社でも、早期に退職してしまうヤング達が多く、数年前から新人の教育係となる場合、新人に対するメンタル面でのケアの研修を受けるようになりました。
私は、会社の中では中堅ですが、新人のころは厳しい先輩がいて当たり前でした。たかだか社会にでて17年ですが、随分と様変わりたように思います。
ゆとり教育の世代の子でも、きちんとしている子はきちんとしている…。
母親としても、すぐに諦めない、いい意味でのハングリー精神を持たせたいものです。
小学校の説明会でも、私の小学校時代にくらべ、随分と過保護だなと感じます。私達、子育て世代がまずはしっかりしないといけませんね。
投稿: アッシュ | 2012年3月24日 (土) 20時54分
アッシュ様
コメントいただきありがとうございます。
おっしゃる通りで、「すぐに諦めない、いい意味でのハングリー精神」はとても大切なことだと思います。近隣の国の人たちに見られる品格の欠けたなりふり構わぬ悪い意味でのハングリー精神はちょいと困りますけど(笑)。
本文では学力のことだけ書いてしまいましたが、学力以前に、人に頼らずに自分のことは自分でやるという姿勢も必要です。森田療法はそういう生活態度を身につけさせる再教育的な面も持ち合わせているかと思います。
投稿: 四分休符 | 2012年3月24日 (土) 22時45分