神経質礼賛 790.認知行動療法と森田療法
『精神医学』誌の4月号に、「オピニオン・マインドフルネス/アクセプタンス認知行動療法と森田療法」という長いタイトルの特集があり、認知行動療法の専門家たち、森田療法の専門家たちの意見が載っていて大変面白かった。認知行動療法の新しい動きに「第三の波(the third wave)」と呼ばれるものがある。これらの精神療法におけるマインドフルネス(mindfulness)とアクセプタンス(acceptance)の治療原理は、価値判断を下さずに現在をありのままに受け入れる、というもので、「あるがまま」という森田療法との類似性が指摘され、話題になっている。認知行動療法が森田療法に近づいてきたという見方もある。今後、認知行動療法がどのような流れになっていくか注目したい。
認知行動療法と森田療法には類似点が多いが、根本的な相違点がある。最新の「現代精神医学事典」(弘文堂)の認知療法(認知行動療法)の項目には、「人間の気分や行動が認知のあり方の影響を受けるという理解にもとづき、認知(ものの考え方や受け取り方)のあり方に働きかけることによって精神疾患を治療することを目的とした構造化された短期の精神療法である(大野裕)」とある。認知の歪みを是正したり行動パターンを変えたりすることで症状改善を図っていくわけである。ところが、森田療法では「症状は不問」として、症状を直接のターゲットとしない。なぜなら、症状を何とか消そうと「はからいごと」をすればするほど、「とらわれ」を深めて症状を悪化させる悪循環に陥ってしまうからだ。そこで症状の良し悪しに一喜一憂するのではなく、気分はともかくやるべき行動をしていくように指導する。そして事実本位の生活になってくれば、症状は忘れている、という具合で、結果的には症状は消退しているのである。自分の行動を減点法で評価しないで加点法で評価するとかマイナス思考でなくプラス思考で考える、ということはよいけれども、時に、「プラス思考に考えなければいけないのに自分はそれができない」と悩む人がいる。また、認知の歪の是正に力を注ぎ過ぎて、実際の行動が伴わなかったり症状へのとらわれを深めてしまったりする人もいる。そういう人には、森田の原点に帰って、理屈はさておき行動することをお勧めしたい。
最近のコメント