神経質礼賛 791.雷
このところ、朝は晴れていて午後から空が暗くなり雷が鳴ってにわか雨が降るという不安定な日が続いている。今年は5月の雷の日が例年よりもずっと多かった、とTVの天気予報で言っていた。偏西風の流れが日本列島の南側にズレて、上空に北からの寒気が入りやすくなって、天気が不安定になっているのだそうだ。雷だけでなく竜巻被害も出ている。
昔は怖いものの代表は「地震・雷・火事・親父」と言われた。今では親父の権威は地に落ち、雷の怖さも忘れられている。カミナリ親父という言葉も死語である。かつては「雷恐怖」を主訴とする神経症の患者さんもいたが、今では見かけなくなった。
とはいえ、落雷による死亡例もある。木の下に雨宿りは極めて危険である。ネックレスや腕時計など金属の物を体からはずしても防ぎきれない。木に落雷した時には近くに立っている人にも大電流が流れてしまうのだ。雷が近づいてきたら、早めに安全な場所に避難するに限る。小学校か中学校の理科で習ったように、稲妻が光ってから雷鳴が聞こえるまでの時間差に音速つまり0.34(km)を掛けたものが雷までの距離である。どのくらい近いのか容易にわかるし、それによって避難場所を考えればよい。
ヴィヴァルディ作曲 協奏曲「四季」の「春」第一楽章には春の雷を描写した部分があり、楽譜には「空を黒い雲が覆い、春を告げる稲光と雷鳴が轟く」という詩が添えられている。速い動きの分散和音はヴァイオリン弾きにとって腕の見せ所である。そして嵐が去った後には再び小鳥たちが鳴きはじめる。
人間のこころにも激しい怒りの感情の雷が鳴ることがある。そこで、その感情に任せて行動したらますます雷は激しくなる。森田正馬先生の言われた感情の法則(442話)の通りで、時間が経てば自然と雷は過ぎ去り、再び平穏がやって来るのである。
« 神経質礼賛 790.認知行動療法と森田療法 | トップページ | 神経質礼賛 792.脱法ハーブ »
先生、こんばんは。
コメントではなく、質問になってしまいますが、伺いたいのです。
母が雷に異常な恐怖心を持っています。空が暗くなると、挙動不審になり、急いで屋内に避難します。
雷にたいしては正しい対処法かと思いますが、怖がりかたが過剰なのです。
私も、パニックを患って、初めて母の恐怖心がわかる気がしています。母は高知の海辺で育ち、台風や雷が怖いことを実感し、都会に住むいまでも忘れられないと言います。母も神経質の代表のような性格ですが、雷恐怖も森田療法で対処できるのでしょうか。
投稿: アッシュ | 2012年6月 6日 (水) 20時05分
アッシュ様
コメントいただきありがとうございます。そろそろ梅雨入りかなと思うような天候の日々ですね。
お母様は雷でよほど怖い経験をされたのでしょう。例えば子供の頃、雷に打たれた人を目撃したとか近所の家が落雷で火事になったとか。空が暗くなり、遠くから雷鳴が聞こえてきたら、すぐに安全な所に避難する、というのはまさに正しい対処法です。しかし、過度に恐れ、安全な所にいても怯えているのでは、生活上支障があります。
WHOの診断基準DSM、あるいはアメリカ精神医学会の診断基準DSMでは、雷恐怖はSpecific Phobia(特定の恐怖症)という診断に該当する可能性が高いです。Specific Phobiaには、動物型(犬、蛇、昆虫など)、自然環境型(嵐、高所、水など)、血液・注射・外傷型、状況型(エレベーター、トンネルなど)といった下位分類もありますが、恐怖の対象が複数にわたることもあります。
森田療法的な対応としては、怖いままにその場で必要な行動を取っていく、ということになります。普通の家の中にいれば雷で死ぬような可能性は極めて低いのだから、雷が鳴っていて怖いけれども怖いままに家の中で必要な家事をこなし、雷が去ったら買物などの外の仕事をする、ということになるでしょう。
森田正馬先生が色紙に書いたこんな言葉があります。恐怖症の人にピッタリの言葉だと思います。
毛虫をいやらしく思ふは感情にして、之が人に飛びつかぬものなることを知るは、理智なり。いやらしからざらんと工夫するは、悪智にして、いやらしきまゝ必要に応じて、之を除去する工夫をなす、即ち良智なり。(白揚社:森田正馬全集 第7巻 p.424)
投稿: 四分休符 | 2012年6月 7日 (木) 04時40分
お忙しいなか、お返事いただいてありがとうございました。
母は、室内に入れば落ち着いて窓の外を眺めたりする余裕もあります。
本人は雷の季節は、恐怖との戦いで、出掛けるにも天気を気にしながらということに疲れるようです。
でも、雷に怯えながらも、今まで生活してきた訳だし、雷に対する恐怖心あってこそ、安全に気をつけることになりますね。
今度、母にお話してみます。ありがとうございました
投稿: アッシュ | 2012年6月 7日 (木) 17時58分
アッシュ様
お母様の場合は、合理的な行動をなさっているわけですから、恐怖症というレベルには達していないようにも思えます。お出かけの際に天気を気にするために疲れてしまわれるにしても、急なにわか雨に濡れて風邪をひかれたり、強風の日に無理やり出かけて怪我をされたりすることがないのですから、むしろ神経質を生かしておいでのように思えます。
神経質な人は、体調の変化にも敏感でして、早めに医者にかかり、節制しますから、大病をしにくいということもあります。お母様にはぜひお元気で長生きしていただきたいですね。
投稿: 四分休符 | 2012年6月10日 (日) 22時48分