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2012年10月 8日 (月)

神経質礼賛 834.符牒

 先週、勤務先の病院で全館放送が流れた。それは緊急事態発生の符牒で、発生場所に集合するよう指示したものだった。私は外来診療担当日で患者さんと話をしている最中だったので、いきなり診察室を飛び出すわけにもいかず、その患者さんの診察が終わってから行ってみると、抜き打ちの訓練だと知った。


 
 デパートなどの大型商業施設の全館放送では符牒(隠語)が使われていることはよく知られている。ある雑誌に紹介されていた西武百貨店で使われている隠語は、「にしのもりこ」さんの呼び出しは不審物発見、「にしたけまもる」さんの呼び出しは火災発生、「にしあらた」さんの呼び出しは事故発生、などだそうだ。また、特定のBGMを流して、雨が降り始めた、とかVIPが来ている、などの情報を伝える施設も少なからずあるらしい。


 
 私は医療系ドラマを一切見ないが、医療関係者の間で隠語が多用されていることは御存知の通りである。ガンとは言わずに「カルチ」(carcinomaの略)とか「クレブス」(独Krebs)、患者さんが亡くなったことを「ステった」(独sterbenの略)、脳卒中を起こしたことを「アポった」(apoplexyの略)、という具合に英語あるいは古くはドイツ語やラテン語から取った隠語が多い。

かつての大学病院ではどの診療科でも大名行列と揶揄される週1回の教授回診があった。病棟医長や婦長の案内で教授が先頭に立ち、助手、医員、研修医、臨床実習の医学生の一群が続く。教授がベッドサイドに着いたらすばやくその患者さんを担当している研修医が前に出て病状経過をプレゼンテーションする。この際、患者さんには知られたくないこともあるので符牒が多用されていた。今ではインフォームド・コンセントが定着して、ガンなどの悪性疾患であっても本人に告知するし、検査結果も本人に見せるので、符牒で隠す必要性は少なくなっているかと思う。

大原健士郎教授の回診でも符牒が使われることがあった。患者さんを前にして教授から突然「SMはあったか?」と聞かれた研修医は困った顔をしていたが、これは自殺企図あるいは自殺念慮のことだった(自殺:独Selbstmort)。また、「ヒステリー傾向です」と患者さんの前で言うわけにもいかないし、「エイチワイ」(Hy)では感づかれるかもしれないので、ドイツ読みの「ハーイプシロン」が用いられていたことを思い出す。


 
 今回使われた符牒は、放送機器のテストを思わせるものなので、緊急事態発生の放送だとは思わなかった職員もいたようだ。誰にでもわかってしまう符牒では意味がないが、紛らわしい符牒も困る。神経質はすぐに反応するけれども鈍感な人もいる。実際に何度か訓練するしかないだろう。

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