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2013年2月25日 (月)

神経質礼賛 880.神経質は劣等感から?

 神経質人間は劣等感が強い、とよく言われるし、実際そうではあるけれども、そのウラには、人よりも優れたいという強い欲望がある。そのことについて、森田先生の治療を受けていたある患者さんが形外会の場で述べ、森田先生と高良先生がそれに答えた記録がある。


 
小川氏 学者は神経質は劣等感から起こるというけれども、私は優越感から起こると思うがいかがでしょう。

森田先生 その説の方が面白い。例えば赤面恐怖は負けず嫌いであり、勝ちたがりである。単なる劣等感ならば、当然人に負けていても不満を起こさないはずである。しかもいかにしても、それで満足する事のできないところに優越感がなくてはならぬのである。

 死にたくないのは生きたいがためであり、恐怖は欲望のためである。相対的関係であるから、一方からのみ論じてはいけない。

高良博士 私共も学生時代、自分の意志が弱いと思って、夏、わざと水筒も持たずに山登りをしたり、無銭旅行などやった事がある。劣等感は強いけれどもそれなりで負けていたくないからいろんな努力をする。こんな神経質の療法としてはまずい方法でも、自分でやろうと思えばたいていのことはできるという自信だけはできるのである。(白揚社:森田正馬全集第5巻p.63-64


 
 自分はダメだという劣等感からヒネクレて何も努力しなければ単なる意志薄弱の本当のダメ人間なのだが、神経質はそのままではいられない。何とか人より優れたいと内心思っているから努力を重ねる。それでもまだまだダメだと思い、さらに努力を続ける。気が付けば、決して人に劣らない人間になっている。それでも「生の欲望」が強いから、まだまだ努力を続けるのである。弱いようで強いのが神経質である。

2013年2月22日 (金)

神経質礼賛 879.男性不況 mancession

 先週15日の毎日新聞夕刊特集ワイドは、なんとも「不況」な男たち、という大見出しに、家庭の居場所が消え、女性に押される雇用、「チョコ」の数さえ・・・という小見出しが並んでいた。結婚しても子どもができればセックスレス、やがて妻は子どものお受験まっしぐら。家庭にオトウサンの居場所はない。リーマンショック後のアメリカで男性manと不況recessionを組み合わせたmancessionという言葉が作られた。製造業の雇用がグローバル化により縮小し、医療・福祉を含むサービス業では女性が求められていることもあって、男性の失業率が増加している。日本でも同様であり、女子枠が増えて男性社員の居場所が減少。職場からはじき出された男性は若ければ非正規社員に流れ、中年だと再就職が難しく熟年離婚ということにもなる。男性は企業、家庭という二つのシェルターを失い、放り出され、孤立し、男性クライシスとなっているという。女性たちは女子会で盛り上がって元気であり、消費を牽引する主役は女性たちである。今ではバレンタインチョコも女性同士の「友チョコ」が主流なのだそうだ。

ある調査によれば、日本のサラリーマンの小遣いは1990年以降減少の一途をたどり、現在は当時の半分の平均4万円弱だという。こうなると仕事帰りに赤ちょうちんで一杯、も難しい。男性はお金を使わずにつましく生きていくことを迫られている。昼間の図書館には中高年男性の姿が目立つが、数少ない無料の居場所ということなのだろう。

 第一生命の今年のサラリーマン川柳の入選作が20日の各新聞に出ていた中に、「妻の言う 『うちのルンバ』は 俺のこと」という句があった。ルンバとは丸い形をしたロボット式自動掃除機である。これなんかは身につまされる。我が家のルンバ君はポンコツで耐用年数が近くなっている。

 不況の英語は先に出たrecessionの他に、うつを表すdepressionもある。こういうご時世だと悲観しやすい神経質人間はますます落ち込みやすいけれども、本来、神経質は打たれ強い。もともと生の欲望が強いので、ダメだダメだと言いながらもしぶとく生き残っていくのである。ダメでもともと、生きているだけでもプラス。生きていれば何とかなる。

 最後に森田正馬先生の言葉を紹介しておこう。

石に噛りついても、生きねばならぬ。この他に、神経質者の往くべき道はない。(白揚社:森田正馬全集 第7巻 p.496

2013年2月18日 (月)

神経質礼賛 878、『子どもの発達障害 家族応援ブック』

 このたび『子どもの発達障害 家族応援ブック』(法研)という本が出版された。著者は国立病院機構天竜病院で児童思春期の精神疾患を専門に診ておられる高貝就(たかがい・しゅう)先生である。高貝先生は大原健士郎先生が浜松医大の教授をしていた最後の年に精神科医局に入局してこられた。大変優秀であり、誰もが避けるような厄介な仕事も引き受けてソツなくきちんとこなし、いつもニコニコしておられたのが印象に残っている。森田療法にも造詣が深い。その後は大学院に進学。学位取得後は留学され、大学病院の講師・医長として活躍された後、現在は天竜病院の児童精神科部長をしておられる。

 この本を読ませていただいた。アスペルガー症候群などの発達障害は精神科領域で最も注目されている分野であるが、専門家は少なく、著名な医師だと診察予約が1年先、2年先、なんていう話をよく耳にする。今では発達障害関連の書籍は多数出ているものの、実際に家族が読んですぐに役に立つものは多くはない。この本では、まず広汎性発達障害を中心とした発達障害の解説があって、その後は子どもの成長年代順に、発生しやすい困った事態について、マンガ入りの見開き2ページ単位で、解説と対応策が書かれている。発達障害の子供を持つ親や場合によっては本人が読んで実際に役立つのはもちろん、発達障害について知りたいという人が初めて読むのにも好適な本だと思う。単に発達障害のレッテル貼りではなく、本人や家族にとって困ったことを解決する処方箋を具体的に示しているのが優れている点である。発達障害に関心のある方はぜひ読んでみて下さい。


 
 神経質の場合も、親が気をつけた方がよいことがある。神経質性格は遺伝的に持って生まれた部分が大きいが、生育上の環境も影響している。概して親も神経質であるから、ついついあれこれ心配して過度に叱ったり過干渉になりやすく、その結果、子供は自信を失って萎縮し、ますます神経質傾向を強めていくことになる。思えば私の母親も神経質であり、私は子供の頃に褒められた記憶は全くない。いつも減点法でダメなところを指摘され続けていたから、自分はダメな子だと思い、常に失敗を恐れてビクビクするようになってしまった面もある。「かくあるべし」で身動きできなくなってしまっていたのだ。過干渉せず、自由に行動させ、感じたことを表現させて、自発性を伸ばし、失敗はあまり叱らずに良いところは褒める、という対応があるとよいと思う。

 森田正馬先生はイタリアの女性精神科医で教育者でもあるマリア・モンテッソーリ(1870-1952)を高く評価していた。その自発性を伸ばす教育法が森田療法と共通点を持っていることは392話に書いた通りである。

2013年2月16日 (土)

神経質礼賛 877.「面白い恋人」の結末

 732話に書いた「面白い恋人」の訴訟騒ぎが決着したという新聞記事があった。吉本興業が売り出した菓子「面白い恋人」のパッケージは北海道を代表する土産菓子「白い恋人」(石屋製菓)にそっくりである。「間違って買ってしまった」という苦情もあったという。中央の雪山(利尻岳)の写真は大阪城の天守閣らしき絵に変わっていたが全体の色やデザインがよく似ていて、ネーミングと合わせれば、商標権侵害として訴えられたのも無理はない。今後は関西地区6府県だけの販売とし、百貨店などでの催事販売も年36回以内とし、パッケージを変更するという条件で和解が成立し、販売差し止めを求めていた石屋製菓側が訴訟を取り下げたとのことだ。「面白い恋人」は良く言えばパロディー・悪く言えばパクリなのだが、菓子自体は全く別物だ。「白い恋人」がチョコレートを挟んだクッキーなのに対し、「面白い恋人」は、みたらし味のゴーフレットである。実際に勤務先の病院におみやげに買って行ったら、「こういう菓子もありだね」とか「意外とクセになる味」という声があって評判が良かった。その点は、神経質が欠如した近隣某国の無断コピー粗悪商品とは異なる。

 せっかく菓子自体が良いのだから、ユーモアの街・大阪をアピールする商品としてリニューアルしたらよい。パッケージは吉本らしく漫才ネタにして、時々新しいものに変えていけば、リピーター続出となるのではないだろうか。どうでっしゃろ?

2013年2月15日 (金)

神経質礼賛 876.花粉シーズン到来

 2月も半ばを過ぎ、今年もいよいよスギ花粉シーズン到来である。天気予報の花粉予報では「多い」や「非常に多い」が出るようになった。昨年の夏の気温が高かったために今年は飛散するスギ花粉の量はかなり多いものと予想されている。花粉症持ちの人にとってはつらい季節が始まる。私も2月の初めから眼と鼻の症状が少しずつ出始め、薬を飲んでいる。

 忙しくて混雑した耳鼻科に行っている時間がない、という人には朗報がある。昨年の「アレジオン10」に続いて今年は同じく第2世代抗ヒスタミン剤のアレグラが「アレグラFX」という商品名で薬剤師さんのいる薬局で購入できるようになった。いずれも眠気が少ない薬なので、仕事への支障が少ない。某大手ドラッグストアの新聞折込チラシに載っている価格は、アレジオン10が12錠(12日分)で1980円、アレグラFXは28錠(14日分)で1980円である。

 日経メディカル2月号p.26の記事によれば、アレグラに鼻粘膜の血管収縮剤を加えた「アレグラD」という薬が海外ではすでに市販されていて、間もなく国内でも発売されるという。重症の花粉症に効果を示しそうだが、重症高血圧や心臓の冠動脈疾患のある人には使えず、連用には適さない。また、以前からTV番組で取り上げられて注目されている舌下免疫療法薬も承認申請中とのことで年内に発売となる可能性がある。

 年々副作用が少ない薬が開発されてきているが、それでもやはり対策の第一は花粉を避けるの一言に尽きる。外出は必要最小限にし、外出時にはマスク(眼の症状にはゴーグルが有効)使用、帰宅時には衣服の花粉を払ってから家に入る、といった対策をこまめにしていくことだろう。窓の開けっ放しも要注意だ。このあたりは神経質の発揮どころである。

2013年2月11日 (月)

神経質礼賛 875.満面の笑顔

 ここ2か月ほど通院がなかった外来患者さんがしばらくぶりにやってきた。彼は、毎日遅くまで仕事をし、土日休日も仕事の電話がかかってきて対応に追われて休めない生活が続いて、弱っているところに加えて、上司から心無い発言を繰り返されて、うつ状態をきたして受診したのだった。会社に「適応障害(うつ状態)を伴う」の診断書を提出したら、上司から「そんな心の弱い人間はいらないから辞めろ」と怒鳴られ、会社へ行こうとするとパニック症状を起こすようになってしまった。武道で鍛えた巨体が萎んで見えた。人事課長のはからいで、休職し、少しずつ元気を取り戻してきて、リハビリ出勤の訓練をしていたところだった。

 今回は満面の笑顔で現れた。通院が途切れていたので心配していたが、その顔を見てほっとした。「もう薬は飲んでいませんが大丈夫です。すみませんが2か月前の分の傷病手当金の書類を書いてください」と。別会社に移って1か月以上たったという。「仕事の内容は同じだけれど、休日の体制はしっかりしていて電話対応で悩まされることもないし、気持ちよく仕事ができています」と語っていた(プライバシー保護のため内容を曖昧にしていますことをお断りしておきます)。

経済状況が厳しいためか、この種のパワーハラスメントを受けて受診する人が多い。それが怪しげな会社だったらいざ知らず、世間的には超優良と思われている大企業でも起きているのだ。人をどんどん減らしてコストを削減し、一人一人の負荷を上げて、つぶれたら個人の能力不足を理由に辞めさせるというやり方である。パワハラ上司もさらに自分の上司からパワハラを受けていたりする。そもそも医療で解決できる問題ではない。彼がよくなったのも、環境調整がうまくいき、彼自身もそれに合わせてリハビリを行ったからであって、医療としてできたことは一時的な対症療法に過ぎない。

目先の利益を追求するあまり従業員を人間扱いしないような会社に未来はない。従業員あっての会社である。森田正馬先生の言葉「人の性(しょう)を尽くす」・・・その人の力が最大限発揮できるようにする、ような会社でなくてはいけない。神経質人間だったと思われる武田信玄(729)の言葉とされる「人は城 人は石垣 人は堀 情けは味方 仇は敵なり」の通りだ。厳しい時代だからこそ、従業員を大切にして発奮してもらう会社が長い目で見れば生き残っていくはずである。

2013年2月 8日 (金)

神経質礼賛 874.まさかのために

 今週、勤務先の病院では、火災や地震などで避難する際に、すべての電気錠を一斉に開けるテストを連日行った。年に何度か患者さんたちを避難させる訓練は昼夜とも行っているが、電気錠のテストは新たに行われるようになったことである。非常時にはすばやく大勢が逃げ出せることが大切だし、かといって故障していて変な時に開いて事故が起きても困る。いざという時のために日頃からチェックしておくにこしたことはない。

 一昨日は、ソロモン沖地震があって、津波注意報が発令され、一部の地域では安全な場所への避難が行われた。結果的には被害をもたらすほどの津波は日本では観測されなかったが、たとえ50cmの津波でも足を取られて沖に流されてしまい命を落とすことがあるから油断はできない。津波注意報のため県内の観光地で遊覧船を運休したことについて責任者が「こういう時だからしょうがない」と新聞にコメントしていたけれども、「お客様の安全のためには当然です」と言えないようでは危機意識が薄い。

 また、同じ日に首都圏では大雪の予報が出て、今年の成人式の日のように交通が混乱したり転倒による負傷者が出たりすることが懸念された。バス会社では前日からバスのタイヤにチェーンを巻いて大雪に備え、カー用品店ではチェーンが売り切れた。混乱を防ぐため、JRでは電車の運行本数も少なくして対応した。実際には首都圏ではそれほど雪は降らず、予報がはずれたことや電車の運行本数を減らしたことに苦情が出ていたようだ。確かに不便だったのはわけるけれども、まずは大雪でなくてよかった、と喜ぶべきところではないだろうか。

 こうしたまさかのための準備は神経質人間が得意とするところである。

2013年2月 6日 (水)

神経質礼賛 873.今年のインフルエンザワクチンはハズレ?

 寒さと乾燥のためか、全国的にインフルエンザが猛威を振るっている。先週末、厚生労働省が「インフルエンザは警報レベル」と発表し、流行がピークを迎えているとして注意を喚起している。昨日のニュースでは県知事がインフルエンザでダウンしたということだ。

毎年、勤務先では11月頃に入院患者さん全員と職員全員にワクチンを打っている。幸い、患者さんは外部との接触が少ないこともあって、今のところインフルエンザ発症者はおらず、職員の感染もごく少数に留まっているが、職員の家族では「ワクチンを打ったはずなのにインフルエンザにかかってしまった」という話をよく聞く。ワクチンはその年度に流行しそうなウイルス株を予測して、それに対応するものが作られている。「今年のワクチンはハズレだったのではないか」という声が上がっている。

 しかしながら、そういう話は毎年出ているような気がする。そもそもワクチンを接種して予防できるのは製薬会社の文書によると60%程度なのだそうである。ワクチンを接種しなくても抵抗力があって、発症しない人もいる。それならば、打たなくていいじゃないか、という人もいるだろうけれど、かかっても軽症で済むことが期待できるし、多くの人がワクチンを打っていることで、大流行が避けられることが期待できる。防げる率が60%だとしても病院や高齢者施設では全員ワクチン接種はしておくべきところだろう。つい最近、「患者さんの体調を考えて」という理由で入院患者さんのワクチン接種をしていなかった病院でインフルエンザによる死者が3名出たという新聞記事があった。そうなってからでは遅い。

 神経質人間としては、外出時のマスク、帰宅時の手洗い・うがいをしっかり行って備えたい。

2013年2月 4日 (月)

神経質礼賛 872.マスオさんの健康管理

 1月28日の読売新聞家庭欄に「手作りみそで若々しい声」という見出しで、TVアニメ「サザエさん」のマスオさんの声を担当している声優・増岡弘さんの記事があった。増岡さんは、お子さんの小児ぜんそくをきっかけに家族の健康を守るために、味噌作りを始めたそうだ。今では、声優仲間と一緒に大豆や麹を共同購入して作り、味噌の品評会をしているという。そして、マスオさん役になってから35年になるが、ほとんど風邪をひかないのだそうである。

 アニメのサザエさんは24歳、マスオさんは28歳という設定ながら、増岡さんの実年齢は何と76歳。全く年齢を感じさせない溌剌とした声なのには驚く。さらに、波平さん役の声優の永井一郎さん、フネさん役の麻生美代子さんはともに80代だという。

 もちろん、厳選した材料で手作りした味噌の効果もあるだろうけれども、普段から健康に気遣うことで、病気にかかりにくくなり、老化を遅らせることになっているのだろう。長寿アニメで声優の交代は容易ではない。仕事への責任感、良い意味での緊張感も若さを保ってきた要因だろう。そして仕事の上で若いマスオさんになりきることも精神的に若さを保ってこられた秘訣なのかもしれない。

2013年2月 1日 (金)

神経質礼賛 871.追悼 岡本常男会長

 昨年124日にメンタルヘルス岡本記念財団会長の岡本常男さんがお亡くなりになった。追悼文を書きたかったのだが、逝去されたことについて財団ホームページ上の発表がないため、これまで控えていた。このほど発行された生活の発見誌2月号p.43に岡本会長が逝去され「忍ぶ会」(「偲ぶ会」の誤植?)が224日(日)に行われるという記事が掲載されていて、公開されたも同然であるから、書かせていただこうと思う。私の自宅にも岡本常男会長を偲ぶ会の出欠ハガキが送られてきた。当日はあいにく日当直勤務が入っていて動きが取れない。何とも残念である。


 
 森田療法関係者で岡本常男さんを知らない人は皆無であろうが、たまたまこの文章を目にした方のためにごく簡単に記しておく(37話・268話・269話参照)。

 岡本常男さんは1924年生まれ。第2次世界大戦でシベリアに抑留され、九死に一生を得て帰国。文字通り裸一貫から苦労を重ねて大阪に衣料品店「岡本商会」を作り上げた。のちに「ダイエー」「ジャスコ」「ヨーカドー」と並ぶ四大スーパーのひとつ「ニチイ」(マイカル)の共同経営者となり、副社長となった。サクセスストーリーの典型のような人生だが、ニチイの営業本部長時代には胃腸神経症にかかり、食物がノドを通らなくなって、激ヤセしてしまう。いろいろな治療を受けてもよくならず、森田療法を勉強されて実践したところ、見事に回復された。その後、森田療法の普及と発展を天職として、私財40億円を投じてメンタルヘルス岡本記念財団を創設し、国内はもとより、諸外国に森田療法を広めるために東奔西走されてきた。晩年には息子さんに理事長職を譲られて会長となり、財団運営が盤石なものになってからもなお森田療法学会をはじめとする森田療法関連の行事には必ず参加されていた。今日の森田療法があるのも、岡本さんの尽力によるところが大きい。


 
 私が初めて岡本会長(当時理事長)に身近に接したのは、平成7年に北京で行われた国際森田療法学会の後、オプショナルツアーで桂林へ行った時である。その後、私が三島森田病院に移ってから、8回ほど財団のセミナー講師をさせていただいた際に、お会いしていた。セミナーでは、まず岡本さんが御自身の体験を語り、次に生活の発見会の方の体験談があり、その後で精神科医が森田療法について話をするという流れだった。セミナーを終えて関係者で会食に向かう時、大阪の街を奥様と肩を並べて歩く岡本さんの後姿がほほえましかったのが強く印象に残っている。拙著のあとがきに書いたように、岡本さんから「森田療法の本を書きませんか」と言われたのが、当ブログを始め、ひいては拙著を出すきっかけとなった。


 
 岡本会長に最後にお目にかかったのは一昨年6月のことだった(672話)。メンタルヘルス岡本記念財団の事務所移転後の新しい図書室で古閑義之先生の本を探して読ませていただき、さて帰ろうとエレベータに乗ったところで顔見知りの財団事務の方に呼び止められ、現理事長・現事務長そして岡本会長にお会いすることになった。会長は御体調がすぐれないにもかかわらず、毎日事務所に出勤なさっているということであり、「財団では森田療法の発展のため、研究を助成しています」と力強い口調で話されたのには、鬼気迫るものを感じた。


 
 岡本常男さんは経営の神様・松下幸之助(211話)と共通点が多い。家庭の事情で高等教育を受けられなかったが、神経質性格を生かして起業し、その事業を着実に発展させていった。そして、私財を投げ打って社会のために尽くされた点も重なる。森田正馬先生の言葉「己の性(しょう)を尽くし、人の性を尽くし、物の性を尽くす」を体現された一生だったのだと思う。


 
 岡本常男さんの御冥福を心よりお祈り申し上げます。

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