神経質礼賛 930.「お大事に」「ご自愛ください」
病院の診察室を出る時、医師から言われる言葉は通常「どうぞ、お大事に」である。似たような言葉に手紙文の最後に書かれる「どうぞご自愛ください」というものがある。どちらも柔らかくて響きのよい言葉であるけれども、これは自分の心身の変化に過度に注意を向けている神経症の人には不適切な場合がある。例えば不眠に過度にこだわり「一睡もできない」などと言う神経症性不眠は、客観的には眠れている。パニック発作は死ぬほど苦しく感じられても、客観的には循環器系や呼吸器系の異常はなく、死ぬことはない。人前で激しく緊張して話ができないと訴える対人恐怖の人も人前であいさつさせれば客観的には堂々と話している。そこで症状を恐れてお大事にして何もせずに休んでばかりいたのでは、却って心身の機能は衰え、生活リズムが乱れ、症状を悪化させるばかりである。「お大事に」「ご自愛」し過ぎるのが神経症である。
森田正馬先生は『生の欲望』の中で、「或強迫観念症の患者のために」として次のように書かれている。
小我の偏執
明けくれに己が苦悩をいたはりて子等も人をも思ふひまなし
自我の拡張
いとし子の生い立ち行くを楽しみに我年ふるを知らで過ぎけり
教え子の名の世の人に知らるゝを我事のごとくうれしみにけり
(白揚社:森田正馬全集第7巻 p.198)
せっかくの神経質性格を自分の心身の変化ばかりに注意を向けることに費やし、あれこれグチをこぼしてばかりいたのでは、この「小我の偏執」に他ならない。神経質性格を生かして四方八方に気を配り人の役に立つように行動していけば「自我の拡張」となり、その時には症状はなくなっているのである。
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