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2013年9月 9日 (月)

神経質礼賛 943.プラセボ効果

 今年の5月に福岡で行われた精神神経学会学術総会の時に聴いた加藤敏先生の教育講演が、このほど送られてきた精神神経学雑誌(115巻8号)に掲載されていた。講演の時の演題とは少々変わって「プラセボ効果の吟味と精神療法の再評価 うつ病に力点をおいて」という題名なっていた。加藤先生は序論で、「薬物療法が大きな力をもち、これが治療のすべてであるかのような風潮さえ出ている昨今の精神科医療をみるにつけ、いかなる治療においても暗黙のうちに精神療法過程が作動している可能性に注意を向けたい」と述べておられる。

 プラセボ(偽薬)効果とは、本来は薬理作用のない物質であっても、効果を示すことである。現代では説明と同意の原則により、プラセボが処方されることはほとんどなくなっている。ちなみに、最近は薬によって起こりうる副作用の説明を詳しくするため、プラセボと逆のノセボ効果が出てしまい、薬の効果が発揮できないということも起こっている。

 以前にも、抗うつ薬開発の際の最大のライバルはプラセボだという話を書いた。新薬開発の際には、二重盲検試験と言って、医師も患者も実薬かプラセボか知らない状況で薬を処方して結果を出し、実薬がプラセボに対して統計的に有意な効果を示さなくてはいけない。ところが、プラセボが意外に良い成績を上げてしまうため、開発担当者たちは苦労することになる。用量を変えたり、服用する時間を変えたりして、プラセボに勝てるような条件を作り出してどうにか承認・販売までこぎつけた薬ばかりである。

 加藤先生はプラセボ効果に関する最近のいくつかの海外での生物学的研究結果を紹介した上で、精神療法、心理社会支援などの非薬物療法が、脳内神経伝達物質に直接作用する実際の薬と同様な作用をする可能性がある、とし、精神療法の意義をあらためて認識する必要がある、と結論づけておられる。


 
 この話はうつ病についてだったが、神経症(不安障害)についても言えることのように思う。今では新規抗うつ薬SSRIなどによる薬物療法が治療の前面に出てしまっている。エビデンスを追及するあまり、精神療法は隅に追いやられ薬物療法一辺倒の風潮がある。しかし、本来、うつ病が自然治癒したりプラセボで治癒したりするのと同様、神経症も薬なしで治りうるものである。レジリエンス(927話)を強化する森田療法がもっと広く知られることが望まれる。

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