神経質礼賛 988.日脚伸ぶ(ひあしのぶ)
今時分は一年の中でも一番寒い時期である。
老猿は こごまりてあり 冬の日の 斜にさせる 檻の片隅(白揚社:森田正馬全集第7巻 p.444) という森田先生の短歌がある。低い角度から照らされる弱い日の光を浴びながら檻の隅で寒そうにしている老猿の姿が目に浮かぶ。
森田診療所では卵を産むニワトリや毛皮が利用できるウサギは飼っていたが、ペットという以外には役に立たない犬や猫は飼っていなかった。まさに実用第一主義である。ところがサルが飼われていたことがあった。これもペットではなく、森田先生は神経質の研究をする以前に精神遅滞の研究をしていたことがあり、サルの知能を上げることができないかという研究用だったのだ。森田先生が詠まれた短歌は日常生活を題材にしたものが多く、前出の老猿も大きな檻の中で世話されている動物園のサルではなく診療所の小さな檻の中で長年飼われていて患者さんたちが世話をしていたサルだったと考えられる。そうすると、ますます哀感が伝わってくる。
朝、家を出る頃はまだまだ暗いけれども日没時刻は少し遅くなってきて、日が伸びてきたなあと感じる。おとといの天気予報でこの時期を表す「日脚伸ぶ」という言葉を説明していた。冬も終わり頃になって、昼の時間がしだいに長くなることを言い、俳句では晩冬の季語として使われるのだそうだ。恥ずかしながら初めて聞く言葉だ。いい語感の言葉だと思う。日が伸びるだけでなく寒さで縮こまった私たちの体まで伸びるイメージが湧き上がる。寒さは厳しくても少しずつ春が近づいている。
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先生、すっかりご無沙汰しております。
新年のご挨拶もせぬまま、失礼いたしました。
遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
昨年暮れ、本年はじめにかけて、
娘を静岡に連れてくる件で、てんやわんやの暮らしをしていました。
ようやく、新学期から幼稚園にも通わせることができ、
一段落の状態にまでなりました。
「日脚伸ぶ」の語感、とてもいいですね。
老いて抱く初子のあくび 日脚伸ぶ 啓造
ついでにいくつか共鳴句を引用させてもらいます。
公園に砂のトンネル日脚伸ぶ 鈴木照子
老いて手をつなぐ野道や日脚伸ぶ 長崎桂子
リビングの床の輝き日脚伸ぶ 宮川秀穂
干し物の影やはらかく日脚伸ぶ 村上絢子
病む友の窓辺に小花日脚伸ぶ 榊原ヨリ子
履き心地よきスニーカー日脚伸ぶ 阪本哲弘
撞かれるを待つ里の鐘日脚伸ぶ 宮田香
本年もよろしくお願いいたします。
投稿: keizo | 2014年1月25日 (土) 15時32分
keizo様
あけましておめでとうございます。
「日々の賀状」は毎日拝見しています。御多忙な毎日をお過ごしのようですね。俳句を御紹介いただきありがとうございます。「日脚伸ぶ」がすくすくと元気に育っておられるお子様と重なる句ですね。
本年もよろしくお願いいたします。
投稿: 四分休符 | 2014年1月25日 (土) 21時36分