神経質礼賛 1030.気分は後からついてくる
時々、精神科クリニックの先生から難治のうつ病・うつ状態の患者さんの入院治療を依頼される。時には自殺念慮が強いとか食事が全く摂れないというような重症の場合もあるが、一見して重症ではなく本人の訴えが多くてクリニックの先生が手を焼いている場合がある。すでにいろいろな薬物療法が行われていて反応が悪い。そうした人によくあるのが、意欲が湧かないと言って日中は臥床していて夜になると執拗に不眠を訴え、もっと眠れるような薬を出して欲しいと要求するパターンである。確かにうつが重症である時には休養してエネルギーが回復するのを待つ、というのが治療の基本なのだが、すでに長期にわたって休養して内的エネルギーが回復してきている場合には、少しずつ日中の活動量を増やしていくようなリハビリテーションが必要なのであって、日中ゴロゴロ過ごしてばかりいたのでは長引くばかりである。意欲が湧かない→動かない→体力が低下する→少し動いただけでも疲れてだるい→意欲が湧かない、の悪循環になってしまうのである。また、昼と夜のメリハリを付けなければ睡眠リズムも改善せず、夜間の不眠や昼夜逆転が続くのである。ちょうど骨折の治療と類似している。骨が付くまでの間、長期間患部を固定しているため、筋力が低下し、関節の動きも悪くなってしまうので、少々痛みはあっても少しずつ動かして筋力を回復させ、関節の動きを良くするリハビリテーリョンが欠かせないのと同じである。だから、時々病室を訪れて、日中はなるべく横にならないように注意し、出るだけでも良いから作業療法室へ行って他の人のやっているのを見学しては、と勧めるのが私の仕事である。一言も森田療法とは言わずに、気分本位から行動本位になるよう、背中を押しているのである。 よく私の師の大原健士郎先生は、神経症や慢性期のうつ病患者さんに対して「気分はどうあれ、とにかくやらなきゃならないことをやってみることだよ。そうしたら気分は後からついてくるよ」と言っておられた。気分は天気と同じで自分の力で直接変えることはできない。気分は乗らなくても少し手を出してみる。それが形になれば小さな達成感も出てくる。それを足掛かりにもう一歩動いてみる。そんなことを繰り返していると、いつしか注意が自分の外へ向き、結果として気分も少しずつ晴れてくるのである。
最近のコメント