神経質礼賛 1068.薬を飲みたがらなくて困る人・飲みたがって困る人
精神科病院で仕事をしていると、統合失調症のため、入院を繰り返す人がいる。幻覚や妄想などの症状があっても本人にとってはリアルな体験として感じられるので、自分が病気だという認識が得られにくいから、薬が必要だと思わず中止してしまうことがある。そのために症状が再燃して日常生活が立ち行かなくなって、再入院が必要になってしまうのである。退院してもすぐに戻ってきてしまうということから、以前は「回転ドア現象」という言葉があった。現在では抗精神病薬が改良されて、服薬回数が1日1回で済み、副作用が以前のものに比べて少なくなっている。口の中でスッと溶ける薬や小さなパッケージに入った液剤もあって、飲みやすい剤型を選択することもできる。また、入院期間は短期に留めてデイケアに通ってもらったり、場合によっては訪問看護を行ったりする支援体制も充実してきている。しかし、それでも、服薬・通院が続かずに再発・再入院になってしまって残念な思いをするケースはなくならないのが現状である。
それに対して、神経症の場合は、基本的には飲まなくてはいけない薬というものはないはずである。ところが、神経症の人は精神病の人と異なり、自分は病気であって異常である、という思いが強い。そして、中には薬を飲みたがって困る人がいる。特に、抗不安薬や睡眠薬の類を欲しがる人がよくいる。時には服用量を自分で増やしてしまって減量するのが困難になる場合もある。以前にも紹介したように常用量依存の問題もある。そして飲み続けていた薬を急に中止すると激しいリバウンドに苦しむことになる。精神病では薬による治療が中心であるが、神経症では薬物療法はあくまでも補助的なものであり、薬は最小限にする方がよい。「神経質は病氣でなくて、こんな仕合せな事はありません」(白揚社:森田正馬全集第4巻 p.386)という森田先生の言葉を時々思い出していただきたい。
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