神経質礼賛 1084.動物を飼うことの効用
今年の森田療法学会は8日(土)・9日(日)に東京慈恵医大で開催された。会場受付近くには森田正馬展という展示コーナーが作られ、普段は三島森田病院の資料室に保管されている森田先生の色紙や日記や遺品などが一般公開されていた。私は例によって日帰りで初日だけの参加だった。
一番印象に残った発表は、皮膚科クリニックを開業しておられる女医さんの発表だった。アトピー性皮膚炎の患者さんでは痒いから掻きむしって悪化させるという悪循環がみられる。神経質な性格傾向を持っている人も少なくない。発表例ではひきこもりのアトピー性皮膚炎の若い男性患者さんに対して外来森田療法を行い行動本位の生活を送るよう指導したが一進一退だった。家族の希望もあって犬を飼い始めてケージの置場が患者の部屋だったためいやおうなしに世話係になった。仕方なしに排便の世話をしているうち愛着もわき、昼間に散歩に連れて行くようになると、昼夜逆転傾向の生活が規則正しくなり、バイトに出たり、家業を手伝ったり、通信教育を受けたり、と行動が積極的になり、アトピーもすっかり改善したという。
私の外来患者さんでも犬を飼って精神症状がよくなる人が時々いる。うつ病が遷延化してひきこもりがちの人に効果が大きいように思う。犬の場合、エサやりや糞の処理だけでなく、散歩に連れて行く必要性がある。犬に連れられるように仕方なく外に出かけているうちに結果として気分も改善してくるし、生活のリズムができてくるし、注意が外に向くようになってくるのである。
現代の病院では衛生上の問題があって動物を飼うのは困難であるが、森田先生の診療所ではニワトリ、ウサギが飼われていた。ペットとしてではなく実用性を考えてであったから、犬猫は飼っていなかった。ニワトリは卵を産む。森田先生は卵が大好物であり、ゆで卵は一度に10個でもペロリと食べてしまう人だった。そしてウサギは毛皮に使える、というわけである。サルも飼っていたが、元は実験動物用だったことは以前書いた通りである(988話)。これらの動物たちの世話は入院患者さんたちの仕事の一つだった。動物たちのエサは青物市場へ行ってクズ野菜をもらってくる。時には市場の人から、「いい若い者が何やってるんだ」などと言われ、とても恥ずかしい思いをする。対人恐怖の患者にとってはつらいことだが、動物たちが生きていくために必要であるから仕方なしにやることである。動物の糞の処理は不潔恐怖の患者にとっては避けたいことだが、これまた仕方ない。嫌であっても必要なことに手を出す習慣がついてくれば、神経症はどんどんよくなってくるのである。
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コメント
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先生、こんにちは。 記事にありますように私も生き物と暮らしお世話をするようになって規則正しい生活をしなければならなくなり(笑)、食事も排泄も病気や怪我もみなければならないので必要として動くようになりました。
小さな命から自分の心身を治癒する力をいただいていることに感謝。共に暮らせることに感謝です。
投稿: ヒロマンマ | 2014年11月11日 (火) 11時29分
ヒロマンマ様
コメントいただきありがとうございます。
動物だけに限らず植物の世話を一生懸命にすることは太古からの人間本来の健康的な姿なのでしょうね。子育てと同じで、育てているうちに自分も育てられている、ということではないでしょうか。
弱っていた鳩の赤ちゃんたちを立派に育てて自然に戻されたヒロマンマさんの行動は実にすばらしいことです。
投稿: 四分休符 | 2014年11月11日 (火) 21時33分
動物と暮らすと食事や散歩、排泄等々の仕事ができますが、有無を言わせず必要なことなので、神経質の "やらない言い訳" など吹っ飛ばしますね

これは母が入院中、毎日見舞いに通っていた時も経験しましたし、植物の世話でも同様でした。
見事に咲いてくれた花や立派に成長した果実を目にするのは大きな喜びで、一人停滞して自滅する神経質とは対極の境地でした
投稿: たらふく | 2014年11月15日 (土) 00時25分
たらふく様
コメントいただきありがとうございます。
動物の世話をするのは「待ったなし」ですから、いやが上にも目的本位・行動本位になってきますね。おっしゃるように「やらない言い訳」は通りません。
家族の面倒を見たり、動植物の世話をすることは、ともすれば自己中心的になりやすい神経質にとって大切なことです。そして、それが自分を助けることにもなりますね。
投稿: 四分休符 | 2014年11月15日 (土) 13時39分