神経質礼賛 1101.天は自ら助くる者を助く
この言葉は私が好きな言葉のひとつである。英国の医師・作家のサミュエル・スマイルズが『Self-Help(自助論)』(1859)の冒頭でHeaven helps those who help themselvesと述べたものを中村正直が『西国立志篇』の中で、天は自ら助くる者を助く、と翻訳して日本で有名になった言葉だという。実は、古くからある言葉らしく、イソップ童話が起源という話もある。岩波文庫『イソップ寓話』(中務哲郎訳)p.219の「牛追とヘラクレス」というわずか5行の短い話がそれである。牛追いが荷車を引いていたら、車が窪みに落ちて動かなくなった。牛追いは何もせずに崇拝するヘラクレスに助けを求めた。するとヘラクレスが現れ、「車輪に取り付き、突き棒で牛を突け。自分でも何かしてから神頼みをするがいい。さもないと、祈っても無駄だ」と。
これは神経症の治療にも言えることである。本人の行動と努力なしには治療効果は望めない。私の師だった大原健士郎先生は「神経症は自分で治すものだよ」と患者さんによく言っておられた。森田療法では治療者・指導者はいわば監督・コーチ役である。本人が言われたように行動しないことには始まらない。理屈は役に立たない。何もしなくてもお任せで治してくれるわけではなく、本人の頑張りが必要なのである。森田先生が「入院中の患者が、初めは仕事がいやでも、その心のままに、これを否定・抑圧しようとせずに、ボツボツやっておれば、心は自然に、外向きに流転して、いつの間にか、いわゆる仕事三昧になるという事は、容易に体験のできる事であります」(白揚社:森田正馬全集第5巻 p.397)と言われたように、嫌だなあと思いながらも、こんなことをやって治るのかと疑問を持ちながらも、行動した人は治っていくのである。本当の治療の場は何でもない日常生活の中にある。
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