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2015年1月19日 (月)

神経質礼賛 1107.ハイフェッツとカラヤン

 1月13日付毎日新聞夕刊に「演奏、人生そのもの ハイフェッツとカラヤンに学ぶ」という見出しでユダヤ系フランス人ヴァイオリニスト、ピエール・アモイヤルのインタヴュー記事が載っていて、興味深く読んだ。アモイヤルはわずか9歳でパリ音楽院に入り、12歳にして一等で卒業した天才である。その後、20世紀最高のヴァイオリニストと言われていたハイフェッツについて6年間学んだ。ハイフェッツ(1901-1987)は現在のリトアニア出身の神童と呼ばれたユダヤ人ヴァイオリニストであり、わずか7歳でデビュー。その速い弓使いと正確な音程には右に出る者がいなかった。アモイヤルはハイフェッツに音階練習から徹底的に叩き込まれた。ハイフェッツの元を離れる際、ヴァイオリンの名器をプレゼントされた。そして、カラヤン(1908-1989)とは共演しないことを求められた。ハイフェッツは家族をナチスに殺されている。だからナチス党員だったカラヤンが絶対に許せなかったのだ。アモイヤルはその約束を破ってしまう。もう15年も前のことだし、忘れているのではないかと思い、カラヤン指揮のベルリン・フィルとの共演のオファーを受け入れた。カラヤンとの共演はアモイヤルの名声を高め、音楽的な収穫も大きかったが、以後はハイフェッツに電話をかけても出てもらえなかったという。ハイフェッツはドイツでは決して演奏しなかった。そのまっすぐさが素晴らしいとアモイヤルは言う。「全てがうまくいっている時にこそ、人間は痛みや苦悩を感じなければいけない。演奏というものは音楽だけでなく、人生そのものだということです」とアモイヤルはまとめている。

 面白いのはアモイヤルのハイフェッツとカラヤンの性格分析である。「二人とも一見アグレッシブに見えるけれど、とても内気。ハイフェッツにとって話すのは大変な苦労を要する行為で、逆に演奏してみせるのは、自由に語れる行為だったのだと思う。カラヤンは権力によって内気を隠そうとしていた」と述べている。クラシック音楽界に帝王として君臨したカラヤンが自己愛性人格だったことは80話で紹介している。貴族出身であることは確かだが、あえてヘルベルト・フォン・カラヤンと貴族の称号を自称し、自家用ジェット機やスポーツカーを操り、スキーの腕前を誇示し、いつもスポットライトの中心にいなければ気が済まなかった人であるが、尊大な態度のために嫌う人も少なくなかった。そうした行動や態度も内気を隠すため、という分析はなかなか鋭い。ハイフェッツの興味を持ったことへの完璧主義さや潔癖症からアスペルガー症候群だったとする説もあるけれども、「神童」ゆえ幼い時からヴァイオリン一筋の生活だった特殊性を割り引いて考える必要がある。神経質の完全欲を音楽に生かし切った人と見ることもできるのではなかろうかと思う。

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