神経質礼賛 1139.弱さに徹する
神経質人間は、劣等感を抱きやすく、「自分は全然ダメだ」と思い込みやすい。しかし、それは「人よりも優れたい」という強い発展向上欲からくるものである。だから、何とかしなくては、と行動し始めたら簡単には止まらない。粘り強く、継続力が極めて強いので、スロースターターであっても、いつかはものになることが多い。森田先生は次のように言っておられる。
弱さに徹するとは、倉田さん(倉田百三:『出家とその弟子』などで知られる劇作家で森田先生の治療を受け、形外会にも参加していた)もしばしばお話しがあったように、虎穴に入るにも、大胆に平気になるのではない。ビクビクしながら行く事である。赤面恐怖でいえば、恥ずかしがらないようにするのではない。倉田さんの「恥以上」というのは、恥を恥として、それになりきる時に、初めて恥を超越してできる事である。自分は貧乏である、小学校卒業である、だから金持や大学卒業の人には恥ずかしい。恥ずかしくなくてはならない。恥ずかしいからジッとしていられない。働く勉強する。向上一路よりほかに道はない。心に少しもやましいところのない、「念仏申さるる」ような生活ができる。実際に入院患者で、高等小学校くらいで、大学卒業の人よりも、日記の文字も文章も、よくできるような人があるのである。それは恥ずかしいために勉強したからである。(白揚社:森田正馬全集第5巻 p.728)
森田先生の所に入院した患者さんの中には、「神経質は優秀な性格である」という森田先生の学説に反発して「神経質はやはり劣等である」という論文を書いた人がいた。しかし、それを書いた入江英雄氏はのちに九州大学医学部放射線科教授となり、胃癌集団検診法の確立、高エネルギーによる癌治療の研究、長崎原爆被害の調査研究に活躍し、九大総長にまで昇りつめた。九大退官後は九州がんセンターの設立に尽力され、初代院長にもなった。この人も「自分は神経質で劣等である」と思い続けて努力を重ねて、結果的には神経質が極めて優秀であることを自ら実証したのである。弱くて強いのが神経質である。
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