神経質礼賛 1131.治った人の真似をすれば治る
森田療法の本を読んで勉強して、自分で実行して神経症が治る人がいる。メンタルヘルス岡本記念財団を創立された岡本常男さん(37・268・269・871話)もその一人だった。しかし、理屈ではわかってもなかなか実行できない、という人も少なくない。森田療法は一種の再教育でもあるから、やはり目の前に良いお手本となる人がいてくれると、理解しやすい。そして、その人を真似て行動しているうちに、どんどん良くなっていくものである。入院森田療法でも、良くなった人がいると、他の入院患者さんたちも良い影響を受けてメキメキと治ってくる。入院するわけにはいかないという人は生活の発見会の集談会に参加して、先輩会員から学ぶのも良いだろう。関心のある方はぜひ生活の発見会ホームページを御覧下さい。
森田先生は月1回、患者さんや雑誌「神経質」の読者たちが集まる形外会で次のように述べておられる。
ちょっと話は変わるが、この会でも、また私の家でも、常に元気のよい全治者を見る事ができる。こんな時にも、ただ素直に柔順に、これにあやかりうらやみながら、自分も治ってみたいと思って、じっと見ていれば、自然にその気合いに感化・薫陶されて、自分も治るようになる。これに反してあの人は偉い人であるからであって、自分はそれとは違う。先生の診断の間違いかも知れぬと、ひねくれる人はなかなか治らない。いたずらに治るとか治らぬとかいう文句にとらわれないで、ただ静かに、その治った人の顔を、陰のほうから、人知れず眺めていさえすればよい。屁理屈で、ひねくれるより、いくらか安楽かしれない。行方君や井上君のような元気な気持を見ておれば、自然にそれにつり込まれて治るのである。(白揚社:森田正馬全集第5巻 p.186)
行方孝吉さんは形外会の幹事を務め、戦後、古閑義之先生のもとでの新生形外会会長を務められた。そして朝日生命の社長になっている。井上常七さんもやはり形外会の幹事を務め、森田旅館支配人ののち教育関係の仕事をされ、百一歳の天寿を全うして2010年に亡くなられるまで、「森田療法の生き字引」的存在だった。お二方とも、自分が治ればいいというのではなく、かつての自分と同じ悩みを持った人たちを助けようと活動を続けられ、実生活の上でも大活躍しておられたのである。まさに「己の性(しょう)を尽くし、人の性を尽くす」の人生である。
浜松医大で私が森田療法の担当者となった時、大原健士郎教授から指示されことはたった一言「お前が患者さんのお手本となるように行動していくんだよ」だった。それ以上のことは一切言われなかった。それから二十余年の時が経ったけれども、良い「お手本」にはまだまだだなあ、といつも反省している。それでも、神経質らしく、少しでも努力を重ねていくほかない。そして「努力即幸福」、その努力の中に幸福があるのかなあ、とも思うこの頃である。
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