神経質礼賛 1146.初物・人の噂の「七十五日」
今年の新茶を飲んだ母が「これで七十五日寿命が延びるのかしら」と言う。それにしても、どうして七十五日と言うのだろうか。いくつかいわれがあるようだ。中国の五行思想が元になっていて、季節を春夏秋冬に加えてその間の「土用」を一つと考えて五つの季節があるので、365÷5=73、一つの季節はおおむね75日ということになり、初物の生命力をいただいて季節一つ分長生きできる、というのがその一つ。また、野菜が種をまいてから収穫するまでが75日ほどだから、その分長生きできるのだ、という説もある。
井原西鶴の『日本永代蔵』に「世界の借家大将」という倹約家の話がある。初物を食べると七十五日長生きするという迷信はすでに江戸時代からあった。初茄子を一つ2文、二つ3文で売りに来た。誰もが二つ買った方が得だ、と二つ買ったが、その倹約家は一つしか買わなかった。もう少し待てば大きな茄子が一つ1文で買えるのだから、今は一つ買って皆で分けて食べ、残りの1文でもう一度買った方が得である、という説明をしたという話である。現代的に考えても、初物は盛りの時期の作物に比べれば味や栄養の点で劣り、値段も高い。初物は縁起担ぎ程度にして、盛りの時期に買った方が得である。さすがは大坂商人。合理的である。
同じく「七十五日」を使った諺に「人の噂も七十五日」がある。季節が変わる頃には噂も忘れられるから気にする必要はない、ということなのだろう。神経質な人は、人が自分をどう思っているかを過剰に心配しがちである。そんな人にはこの諺をよく引き合いに出して、そんなことをクヨクヨ考えても仕方ないのだから、とにかく目先の仕事をこなしていこうよ、という具合によく話す。神経質人間が心配するような他愛無い噂は、実際には七十五日どころか、すぐに消えてしまうのである。この諺の英語版はA wonder lasts but nine days(驚きが続くのも9日だけ)なのだそうであり、実際そんなところだろう。
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多くの人が欲しがって需要が沸騰するときは
価格も跳ね上がり、その割にサービスや品質は
雑になりますね。
土用のうなぎは必ず時期を避けるようにしております。
あのように労働集約率(?)が高い調理は、
人力の限界で質の低下は避けがたいです
NHK教育テレビの「100分で名著」、いまは“荘子”をやっていますが、
まさに森田先生の教えのようでございます
投稿: たらふく | 2015年5月21日 (木) 01時42分
たらふく様
コメントいただきありがとうございます。
皆が欲しがる時期を避けて実質を求めた方が得策ですね。それにしても昨今のうなぎでは、年中高値で口に入りません。
森田療法は中国の人々には老荘思想に近いとして受け入れられている面もあるようです。「あるがまま」は無為自然の道でもあるようです。
投稿: 四分休符 | 2015年5月21日 (木) 18時55分