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2015年6月12日 (金)

神経質礼賛 1155.地域移行

 今、精神科医療に大きな変化が起こっている。日本の精神科病院の入院患者数は諸外国に比べて多すぎる、医療費削減も必要だから、患者さんを病院ではなく地域で支えるようにせよ、というのが厚労省の方針であり、都道府県を介していろいろな圧力がかけられてきている。患者さんが入院する時に本人に渡す入院治療計画書がなぜか県にコピーが送られてチェックが入る。入院期間の見通しが1年を超えるように書くとクレームがついて書き直しを求められる。いろいろな薬剤を使ってもどうしても幻覚・妄想が改善しない人も中にはいるし、近隣に迷惑行為をしたため退院反対運動が起きているような人もいる。わいせつ行為や窃盗癖があって、施設への退院さえ困難な人もいる。とにかく1年以内に退院させろ、ということなので、そういう人はやむなく「11か月」と記載しているが、個々の患者さんの状況により1か月で退院が見込める場合から長期にわたる入院が必要な場合があるわけだから、おかしなことだと感じる。

長期入院者や高齢者の場合、グループホームや老人施設などの退院の「受け皿」が必要な場合が少なくないが、それが圧倒的に不足しているという問題が多くの関係者から指摘されている。今回の日本精神神経学会でも地域移行と病床削減に関するシンポジウムが開催されていた。その中では、厚労省は本気で受け皿作りをする気はないのではないか。本気ならば、退院させる人数に見合った受け皿を作るための予算を取って動けばいいはずだがそれをしない。現在入院している患者さんの約半数は65歳以上の高齢者だから、受け皿を作らなくても今のように病院の尻を叩いていれば、10年先から20年先には現在入院中の高齢者が死に絶えて、病床半減が実現するので、それを待っているのではないのか、というような発言も聞かれた。

 退院して地域で生活する人たちを援助して、再発・再入院となるのを予防するには訪問看護は欠かせない。勤務先の病院でも力を入れ始めている。患者さん宅が遠方である場合は、その地域の訪問ステーションにお願いすることになる。そうしたステーションからは、患者さんを訪問するたびに訪問看護報告書と訪問看護計画書が送られてくる。送付書を入れるとA4で6枚にもなる。外来カルテに貼っているけれども、1年、2年経ったらカルテがその種の書類で分厚くなってしまうだろう。内容的にはA4用紙1枚で十分に足りる。枚数が多ければ郵送料だって高くつく。退院可能な人はなるべく退院させていく、という方向性自体は良いのだが、お役所仕事の形式主義が随所に見える。患者さん本位の「ものそのものになる」姿勢が欠落している。


 
 以上は精神病患者さんの入院に関することである。一方、神経症の場合、現在でも病院で医療として入院森田療法を行っていくにはいろいろと不都合な点が多い。病床削減の流れが進めばさらなる困難に見舞われるだろう。入院森田療法の良さを入院外で実現させるためには、デイケアの中で森田療法を行ったり、訪問看護を利用して森田療法を行ったり、といった工夫も必要になってくる。

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コメント

地域や親戚コミュニティーの崩壊が精神病患者さんのケアの面でも難しい問題を露呈してきていますね。
支えるはずの行政が経費面でなんでも削るから救いがないです。
精神科ではないですが、うちの母が救急車で運ばれた時も、その日に帰りましょうとドクターは言いましたが、タクシーにさえ乗れない状態を心配したナースさんが入院を掛け合ってくれました。
行政の人間はまず自らのムダを削ってから医療費を考えろ!と言いたいです。
民間の一人の仕事を3人以上でやってる感じです

たらふく様

 コメントいただきありがとうございます。

 必要な人が医療を受けられないのでは困りますね。お母様、危機一髪でしたね。
 そうかと思えば、明らかに詐病で生活保護を受け、必要もないのに救急車を呼んで救急隊員や医療機関を困らせる輩もいます。
 仰るように行政のムダを徹底的になくすことは大切です。

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