神経質礼賛 1180.一日活きれば一日の儲(もうけ)
病院の図書室にあった水谷啓二著『慎重で大胆な生き方』(白揚社)を読んでみる。水谷さん自身の体験も交えて入院患者さんたちが森田正馬先生から受けた指導について書かれた書である。この本の終わりの方で、二宮尊徳翁夜話の言葉「人と生れ出でたるうへは、必ず死する物と覚悟する時は、一日活きれば一日の儲、一年生きれば一年の益なり」を引用し、苦しみも悲しみも失意もそのままにありながら、日々をありがたく感ずるのであり、すなわちこの世が極楽となるのである、と水谷さんは書いている。薪を背負いながら本を読んで勉強している二宮金次郎(正しくは金治郎)像を見たことのある方は多いと思う。当時の勉強の本と言えば四書(大学・中庸・論語・孟子)であり、中庸の中には森田先生が患者さんの指導に用いた「己の性(しょう)を尽くし、人の性を尽くし、物の性を尽くす」という言葉がある。二宮尊徳の生き方はまさにその通りであって、物を大切にして質素倹約に努め、農村開発に全力を尽くし、農民たちが力を発揮できるように指導していた。神経質者がその力を存分に発揮できるように尽力された森田先生の姿をそれに重ね合わせて見たのだろうと思う。病苦や一人息子や奥さんに先立たれて寂しい思いはありながらも、苦楽共存、水谷さんの言われるように森田先生は「この世の極楽」を生き尽されたとも言えよう。
二宮尊徳翁夜話の中の言葉はさらに「故に本来我が身もなき物、我が家もなき物と覚悟すれば、跡は百事百般みな儲なり」と続いている。神経質人間は減点法で考えがちであり、「自分はダメだ」と思い込みやすい。それは森田先生の言われるように「生の欲望」が強い、欲張りのためである。ダメだと言いながらも、欲張ってあれもこれもとやっているのが神経質人間である。逆に何もないゼロから今度は加点法で見ていけば人並み以上なのである。神経質は大儲なのである。
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