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2015年8月 7日 (金)

神経質礼賛 1173.善行を積むと社交不安障害が改善?

 医療サイトの臨床ニュースに「善行を積む」と社交不安障害が改善する?という見出しの記事があって、気になって読んでみた。カナダのJennifer Trewという研究者が論文にしたもので、高度の社交不安を持つ大学生たちを被験者にして実験したところ、親切行為をした学生たちでは社会的交流を避けたいという気持ちが減少したという。善行は社会的不安の程度を低減することに役立ち、それにより社交を避けたいと思うことが少なくなる、と結論しているそうである。

 ほう、そうか、と感心される方もおられるだろう。しかしながら、これは森田療法の立場からすればごく当たり前のことなのである。DSM(米国精神医学会による診断基準)やICDWHOによる診断基準)で言うところの社交不安障害は神経症の対人恐怖にほぼ相当する。入院森田療法では、症状があろうがなかろうが、他の先輩患者さんたちを見習って作業・行動していくことが求められる。そんな中で物を大切に使う「物の性(しょう)を尽くす」や創意工夫して自分の能力を十分に発揮する「己の性を尽くす」ということを体得していく。さらには、後輩のお世話をする立場が回ってくる。周囲の人たちの能力が生かせるように気を配っていく「人の性を尽くす」が身に付いてくれば、自分にばかり向いていた注意が自然と外に向くようになって、精神交互作用という悪循環から脱却して、気が付けば症状はいつの間にか消退しているのである。善行を積むというのは「人の性を尽くす」に含まれる。森田療法の流れでは自然とそうなってくるところである。それに、善行を積むためには、嫌であっても人と接しなくてはならないから、行動療法で言うところの曝露療法になっているとも考えられる。

 善行しなければ、と難しく考えることはない。素直な気持ちで、「人に喜んでもらおう」という小さな行動の積み重ねで良い。そして自己中心的な善行にならないように気をつけよう。森田正馬先生いわく、

人に親切と思はれようとすれば 親切の押売りになり

人を悦ばせようとすれば 即ち親切となる

の通りである。

そして神経質人間・徳川家康の格言と伝えられる

最も多くの人を喜ばせたものが、

最も大きく栄える

もまた真であろう。

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