神経質礼賛 1267.病識
私は民間の精神科病院に勤めているので、幻覚妄想状態にある統合失調症の患者さんや躁状態の患者さんの入院をよく受けている。時には他の人に危害を加えたが、支離滅裂なことを言っているから精神病らしいということで、警察官に連れて来られる人もいる。どういうわけか私が担当する人には身長180cm以上体重100kg以上のヘビー級男性がよくいて、小柄な私は上から見おろされてしまい、「このニセ医者め!ぶっ殺してやる!」などと目の前で怒鳴られると、ハラハラドキドキ、いや正直言って内心パニック寸前である。こうした患者さんたちは病識(自分が精神病であるという自覚)がなく、幻覚や妄想も実体験として感じているため、なかなか治療に乗ってくれず、一苦労である。
それに対して神経症では、過度に自分が病気だと考えている人が少なくない。そして、症状を消そうと治療を求め過ぎるきらいがある。しかし、症状をなくそうとすればするほど精神交互作用(注意集中→感覚の鋭化→意識の狭窄→注意集中→・・・)の悪循環によって却って症状を悪化させることになるのは森田理論が説くところである。症状はいじらずに日常生活の中で次々と仕事を探して行動していくうちに、気が付いたら症状から解放されているのである。現代ではICD(WHOによる診断基準)やDSM(米国精神医学会による精神疾患の診断基準)によって不安障害として診断し、SSRIなどによる薬物療法を行うのが主流となっているが、結局はモグラ叩きであり、根本的に治せるわけではない。また、脚光を浴びている認知行動療法も大変有力ではあるが、症状を消そうとするため症状の有無に一喜一憂してしまい、かえって症状へのとらわれを深めてしまうこともありうる。一方、森田療法では症状を問題とせずに健康的な部分を伸ばしていこうとする。「神経質は病氣でなくて、こんな仕合せな事はありません」(白揚社:森田正馬全集第4巻p.386)という森田先生の診立ては実に画期的であり、他に類を見ない。
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コメント
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はじめまして、統合失調症の家族を持つ香菜子と言います。家族は統合失調症や精神病であるという自覚が全くなくて、治療を継続的に受けてもらうのに苦労しています。私自身も日々ストレスとイライラで性格が悪くなって自己中心的になってしまいそうなので、自分まで精神病や人格障害にならないように、独学で森田療法を学びはじめました。まだ森田療法の効果は実感できていませんが、何事もあるがままて受け入れる森田療法の精神は少し身についてきたと思っています。香菜子
投稿: 香菜子 | 2016年5月20日 (金) 12時14分
いつも気づきをありがとうございます。認知行動療法のくだりりですが、私もまんまとその罠にハマってしまっていました。悪い気分や症状をやっつるために、認知の歪みを正そうと頑張るとよけいにその事自体にとらわれていました。100年も前にもっと断然いいものを森田先生が発明していたと今知るとなんだか少し悲しくなります。
投稿: oremiracle | 2016年5月20日 (金) 18時50分
香菜子 様
コメントいただきありがとうございます。
御家族が御病気ということで大変な思いをされていることとお察しします。統合失調症をはじめとする精神病の多くは、なかなか自分が病気であるという認識が得にくいため、「自分は病気ではない」「もう治ったから薬は飲まない」ということになりがちです。患者さんに付き添って外来診察にみえる御家族のお話を聞いていると、御本人の再発への不安、将来への不安を抱えておられる方が多いように思います。森田療法的な考え方がそうした不安への対処の一助になってくれればと存じます。
投稿: 四分休符 | 2016年5月20日 (金) 21時28分
oremiracle 様
コメントいただきありがとうございます。
認知行動療法は今や精神療法の花形となっていますが、結局は症状をなくすための手段ということになりますので、(森田)神経質の方々にとっては「とらわれ」の深みに嵌ってしまう恐れもあるのです。その点については、森田療法の立場からもっと主張すべきところかと思います。そして、森田療法が認知行動療法のずっと前に確立された点もアピールしてよいと考えています。
投稿: 四分休符 | 2016年5月20日 (金) 21時37分
はじめてコメントさせて頂きます。
私は昨年、神経質からくる不眠になり苦しみました。森田神経質チェックテストではパーフェクトで当てはまりましたので、森田療法を掲げるクリニックを訪れたりもしましたが、結局はSSRIやベンゾ系睡眠薬などの薬を処方され森田療法的なアプローチはほとんど受けることができず、しかもその薬を飲むと不眠が悪化するのみならず、精神的な別の症状も出てきたりして苦しみました。
そんな中、先生のブログを見つけました。先生は一貫して、神経質の不眠には薬は必要ないという主張を過去においても繰り返しておられました。
私は先生の考え方に従い、日々の仕事を充実させることに主眼を置いた生活を強行し、薬もやめたところ、病的な不眠は解消され、考え方も改まりました。
今は、薬をやめて半年経過し、もちろん寝つきが悪い日もありますが、森田的な発想で日々を過ごしております。
お金を払っても全く治せなかった神経質不眠ですが、南條先生の無料で閲覧できるブログをきっかけとして治せたという次第です。
私が知る限りでは、森田療法を掲げている現役の医師においても、全く薬を用いないという主張をしておられる方は南條先生以外にはありません。
本来は、直接訪問してお礼を言うべきところかとも思いますし、いつかは先生とお会いしてみたいという気持ちもありますが、まずはこのコメント欄にてお礼をいたします。ありがとうございました。
投稿: 西岡 | 2016年5月23日 (月) 13時02分
西岡 様
コメントいただきありがとうございます。また、過分な御評価をいただき恐縮です。
私も全く睡眠薬を処方しないというわけではありません。精神病の方にはどうしても必要な場合も少なくありません。しかし、神経症、特に森田神経質の方には極力処方しない、処方したとしても少量にとどめるよう心掛けています。
御自分の力で不眠症を克服されたのはすばらしいことだと思います。森田療法は単に症状を治すというだけでなく、神経質性格を活かして実生活をよりよく生きていくことを教えてくれるものだと思っています。何かの御参考になりましたら幸いです。
投稿: 四分休符 | 2016年5月23日 (月) 21時39分