神経質礼賛 1298.吃音
8月17日付毎日新聞朝刊のトップ記事は吃音を抱える方々のアンケート調査結果だった。「差別受けた」6割、「理解不十分」7割、という見出しで始まる記事である。吃音に悩む人は100人に1人程度と考えられているが、学校や職場でいじめや差別などを受ける人は少なくなく、「あがり症」「よくかむ人」とみられ、福祉・医療の現場でも吃音がほとんど知られていないといった現状が指摘されていた。自身も吃音の専門医の話が最後に書いてあり、吃音の原因は脳の左半球のネットワーク不全が定説ながら治療法は確立されておらず、吃音者の4-5割が社交不安障害を抱え、うつ病を患うケースも多い、学校や社会の理解で良い環境が築ければ症状が軽減する場合も少なくない、とのことである。
歯科医をしている私の母方従兄弟は吃音であり、子供の頃から親類によくからかわれていた。私は吃音ではないものの、「キ」の発音がうまくできなくて「カキクケコ」がうまく言えず小学校の同級生に執拗にからかわれた経験があるから吃音の人の苦労はよくわかる。のちに私が対人恐怖に苦しむようになった一因かもしれない。親からは「落ち着いてハッキリ話しなさい」と注意されたが、そうなるとますます緊張して口ごもったり、つかえたりしてしまうのである。弘文社の新版精神医学事典の「吃音」の項には、「吃音の子どもの両親の多くは、子どもを叱ることが多く、几帳面で完全主義的な育て方をしている」という記載があり、私の母親はその典型かと思う。
『生活の発見』誌には吃音に悩んだ方、あるいは吃音恐怖と対人恐怖に悩んだ方の体験発表がしばしば掲載される。話し方教室に通って訓練したり、あえて人前でスピーチして訓練したりすることも有効だとは思う。しかしながら、たとえどもったとしても言いたいことが相手に伝われば目的が果たせるのだからそれでよいのだ、という見地から、目的本位・行動本位に人と話をしていく森田療法的スタンスも役立つのではないだろうか。以前、TV番組「世界・ふしぎ発見!」の回答者として出演していた映画監督の羽仁進さんがいつもどもりながらもニコニコして話していた姿を思い出す。
森田正馬先生は吃音恐怖について次のように言っておられる。
吃音矯正のある所に行くと、吃音恐怖を難発性吃音と名付けてある。初めの発音が、容易に出てこないからでもあろう。この吃音恐怖は、吃音矯正所で、療法をやればやるほど、ますます悪くなる。
ここの(森田)療法は、これと反対に、吃音を治そうとするのではない。自由に吃った方がよい。吃る方が、かえって愛嬌があってよいという。(白揚社:森田正馬全集第5巻 p.425-426)
これは形外会の場で吃音恐怖の方の発言に対するお話しの一部であり、吃音や吃音恐怖に御関心のある方は全集第5巻p.424からp.427を読まれると参考になるかと思う。
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