神経質礼賛 1321.形外会の参加者
かつて森田正馬先生のもとで月1回行われていた形外会の集まりには森田先生の他、高良先生、古閑先生、佐藤先生、野村先生といったお弟子さんたち、入院経験のある鈴木知準先生、水谷啓二さんをはじめ多くの神経質者が参加していた。劇作家の倉田百三が参加していた時期もある。神経質に関する座談会だけでなく、皆で東京音頭を踊ったり、隠し芸やゲームをしたり、落語家を呼んだり、ピクニックや泊りがけの旅行に行くこともあった。森田正馬全集第5巻にはその記録が収録されていて、会の様子が生き生きと伝わってくる。これを何度も繰り返し読んでいると、自分も刑外会のメンバーになったように感じられる。時代は変わっても、森田先生の教えを受けることができるのである。現在でも生活の発見会では第5巻を読んで勉強する会がある。
しかしながら形外会の参加者全員が森田神経質かというとそうでもなさそうだ。例えば「馬場夫人」は週1回外来通院し日記指導を受け、1ヶ月ほどで症状改善したとして「神経質及神経衰弱症の療法(増補)」第三十五例・神経過敏症の神経質治療例(森田正馬全集第1巻p.466-473)として報告されている。彼女は、もし治らなかったら森田先生に責任を取ってもらうつもりだったと発言。感情過敏であり他罰性もみられていて、どちらかというとヒステリーと考えられる。その後、形外会にはよく参加し、形外会の旅行には子供連れで参加していた。先生方の薫陶を受け、神経質性格を生かして社会で活躍している先輩たちの影響を受けて、形外会での発言をみると人間的に成長していった様子がうかがえる。入院治療で回復して額縁商として成功した草土舎社長の河原宗次郎氏については水谷啓二さんが『草土記』(670話)に書いている。現代の診断では双極Ⅱ型障害にあたるのではないだろうか。さらに所得税恐怖のため働けない、という熱田氏は後日「入院しても治らなかったから」と繰り返し入院料の返還を要求し、根負けした森田先生が五十円払っている(森田正馬全集第7巻 p.837)。強迫神経症というより妄想性障害あるいはパーソナリティ障害と考えた方がよさそうである。他にも、不純系と言われそうな参加者も散見する。それでも、森田先生をはじめとする先生方、よりよく生きる上でお手本になるようなすばらしい常連の参加者たちが核となっていて、家庭的雰囲気もあって、優れた教育の場として効果的に機能していたのだと思う。
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全集の5巻は医学の素養がなくても学び、楽しむことができると、有斐閣新書の「森田療法入門」で紹介されていまして、けっこう高額でしたが学生時代に買い求め愛読しました。
森田先生の単行本(白揚社)も、どれも面白く耽読しました。
その結果、世にあるフィクション文学などは、ほとんどがうそくさく、馬鹿らしく思えてしまい、人並みの名作読破はまったくできませんでした。
投稿: たらふく | 2016年11月 4日 (金) 18時29分
たらふく様
コメントいただきありがとうございます。
森田正馬全集はとても高価ながら、①第5巻、②第4巻、③第7巻は繰り返し読めて、読めば読むほど味が出てくるので、十分に元が取れそうですね。私は職場にあるのをいいことに自分では買っていません(笑)。病院を退職する時には買おうと思っています。
投稿: 四分休符 | 2016年11月 4日 (金) 21時32分
今は森田療法のおかげでほぼ全治しましたが、鬱と神経症を長く患った私の根本的な原因は、「嫌な気分や症状から、はからいに逃げ続けた」ことが神経を極度に消耗しつづけました。
森田先生と弟子の方々の本、そして先生のこのブログを読み続けること、実践し続けることで私の「甘えた根性」を人間的に再教育しなおすことが治癒につながりました。
あくまで私に関してですが、そういう意味では巷に言われる、「鬱は甘え」という言葉もそれほどひどい言葉ではなかったです。実際に私は嫌な気分からずっと逃げ回っていましたから。
嫌な気分になる状況でもやらないといけない時に困難を覚悟で嫌な気持ちのままやる、という訓練を、失敗する前提の上、暖かく見守られる環境でできることが、この森田療法の治療を成功させる最低必要条件なのでは、と今日のブログを読んでまた思いました。家庭的教育とはそういう環境なのかと。今の日本の医療の現場でその家庭的教育の環境をどれだけ作れるのかがキーなのかもしれません。
全くの素人が意見をしてすみません。
投稿: oremiracle | 2016年11月 5日 (土) 20時20分
oremracle様
コメントいただきありがとうございます。
森田療法では、つらいけれども気分はさておきできることを積み重ねていく、それをやるかどうかがカギです。自分だけでやっていこうとすると難しい面がありますが、よい先輩患者さんというお手本があると行動に移しやすくなります。現代の治療者はあまり自分自身の神経症体験を語りませんが、かつての森田療法家はそれを開陳していましたから、一見きびしく突き放しているように見えても、実は暗黙の共感で繋がっていたと私は考えます。さらには、治療者と患者さんが寝食をともにし、家族の一員のような環境ともなれば、より一層効果を高めたことと思います。実際、森田先生の奥さんの久亥さんは強迫の患者さんを親身になって指導しておられました。こういった治療環境は現代の医療では残念ながら実現できそうもありません。森田先生が「私の気合いにふれて治る」と言われたような気概を少しでも持ちたいと思います。
投稿: 四分休符 | 2016年11月 6日 (日) 17時44分
また寄らせて頂きます。形外会は登場する皆様の面白さで、魅力がとても大きいです。そしてわたくしなどは馬場夫人の人間的成長を真似たいと願います。(入院費や治療費はお高かったようですが、ぜいたく病の面もございましょうか)
投稿: たらふく | 2016年11月20日 (日) 23時34分
たらふく様
コメントいただきありがとうございます。
黒川大尉をはじめ実に多くのキャラクターが登場し、何度も読んでいるとますます親近感がわきますね。個人的には山野井さんのファンです。
投稿: 四分休符 | 2016年11月21日 (月) 23時07分