神経質礼賛 1333.ベゲタミンの離脱症状
1281話に不眠症の薬であるベゲタミンが今年一杯で販売中止となることを書いた。この薬は配合剤であり、主成分はフェノバルビタールという古くからあるバルビツール酸系の睡眠薬・抗てんかん薬である。それに少量の抗精神病薬クロルプロマジンとその副作用止めのプロメタジンが配合されている。通常の睡眠薬ではどうしても効果が得られない患者さんに使用されていた。また、睡眠薬は欲しがるが抗精神病薬は嫌がるような精神病患者さんに投与されていた面もあった。しかし、バルビツール酸系の薬は耐性がつきやすく、習慣性や依存性の問題がある上、過量服薬で死亡する危険性がある。私は研修医時代から極力この薬は新たに処方しないようにし、すでに服薬している患者さんを引き継いだ時には少しずつ減量・中止していくように心がけていた。だから、今回の販売中止の件は私の担当患者さんには全く影響がなかった。しかし、医師の中にはこの薬がお好きな先生がいて、患者さんの不眠の訴えに応じてベゲタミンが追加・増薬されてきたケースがある。その先生も調剤薬局や事務員から今後ベゲタミンは処方できなくなると言われて慌てて減量や中止を始められた。そうした患者さんたちから夜間電話がかかってきて当直中に起こされる羽目になる。「ベゲタミンが減ったら眠れなくて困る」「足がビリビリして困っている」といった訴えがあり、これらは明らかに離脱症状と考えられる。ベゲタミンの添付文書には「適応上の注意」の項に、「連用における投与量の急激な減少ないし投与の中止により、不安、不眠、痙攣、悪心、幻覚、妄想、興奮、錯乱又は抑うつ状態等があらわれることがあるので、投与を中止する場合には徐々に減量するなど慎重に行うこと」と書かれている。
ベゲタミンに限らず、どんな睡眠薬にも多かれ少なかれ問題点はある。不眠に対しては森田正馬先生が言われたように安易に薬で対処するのではなく、生活習慣を見直すのが最善の処方箋である。
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はじめまして。昭和53年鈴木知準先生の診療所に私は入院しました。初診の時先生がふと窓の外を一瞥し「あそこの木にカラスが・・・」と急におっしゃいました。
その時は治療と何の関係があるのか判断できず当惑したのを覚えています。今になって思うにそれが答えだとつくずく納得致します。
あの頃は、今で云うmind wondoringにあったと存じます。そこに心と身体が同期していなかった懐かしくもおぞましい時期でした。
素直に「あら、そうですね。」とか言っておれば入院などしなくてもよかった気がします。
まさに今に生きるだと存じます。
煩悩即菩提、ハイデガーの機投、老子の無為自然等皆同じ土俵にあって同一に連関しているのが判ります。
鈴木先生は時に怖く、時にお優しくまるで賢老人のような稀有なお方でした。人生の中で一時でもご一緒できたことに感謝せざるを得ません。たまたまこのサイトを見て懐かしく思いつれずれ雑文を書かさせていただきました。
投稿: 高橋 保行 | 2016年12月10日 (土) 01時56分
高橋 保行 様
貴重な御体験をふまえたコメントをいただきありがとうございます。
時に怖く時に優しいのは森田先生と知準先生の共通点だろうと思います。真剣の気合いから、治ってもらうためには厳しい言葉も出る、まさに鬼手仏心(965話)です。現代の治療者にはそこが欠落しているように感じられます。
投稿: 四分休符 | 2016年12月10日 (土) 17時43分