神経質礼賛 1361.睡眠薬ベルソムラは糖尿病治療・予防薬?
先週の2月22日水曜日、例によって健康番組好きの妻がNHKの「ガッテン」を見ていた。「最新報告!血糖値を下げるデルタパワーの謎」というテーマだった。夕食を食べながらで、私はそれほど熱心に見ていたわけではないが、「糖尿病の予防や治療に効果のある身近な薬○○」という触れ込みがあって、そこで画面を見たら出てきた薬は睡眠薬のベルソムラだった。薬剤シートの商品名がハッキリ見えた。睡眠薬についての解説があってこの薬は従来の睡眠薬と異なり「副作用の心配がない」旨のコメントがあり、「睡眠薬で糖尿病が治療できる」というテロップまで流れたのには驚いた。
番組の主旨は、脳波でデルタ波(1-4Hzの徐波)が出るような深い睡眠が増えると血糖値を下げるインスリンの分泌が増えるので熟睡することは糖尿病の治療や予防に良い、ということのようだが、番組をそのまま鵜呑みにすると、じゃあ、糖尿病の予防にはベルソムラを飲めばいいのか、糖尿病の人は全員ベルソムラを飲めば良くなるのか、ということになってしまう。特に神経質な人だと、熟睡できないと糖尿病になるのではないかと考えて不安になる人も出るかもしれない。「ガッテン」できない内容である。これを見た視聴者からさっそくクレームがあったようで、NHKではホームページ上にお詫びを表明し、本日夜放送予定の「ガッテン」でも謝罪するとのことである。
ベルソムラは当ブログ1075話で紹介した通り、新しい作用機序の睡眠薬であるが、全く副作用がないわけではないし、他の薬との相互作用がいろいろあって、例えば抗生剤のクラリシッド(クラリス)は併用禁忌になっている。それに、熟睡さえすれば糖尿病が治療できるとか予防ができるという単純なものでもない。やはり食事に気をつけ、生活習慣を改善していくことが治療や予防の第一歩なのである。それでも血糖値が高ければ専門医の指導を受け、必要ならば薬物療法を受ければよい。この番組を見て、熟睡しないと糖尿病になると心配することはない。
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先生こんにちは。
ベルソムラの記事、興味深く拝見いたしました。
ベルソムラによる深い睡眠→血糖値改善、という思わぬ「ポジティブな副作用」の話題と解釈いたしましたが、私も最近、同様な体験をしたので、紹介させて頂きます。
ここ数年、高血圧に悩まされていましたが、やはり一生薬を飲み続けることになることに抵抗感があり、医師の助言を無視し、何とか運動療法や食事療法で改善しようとしてきました。
ところが昨年夏、夜中に胸が苦しくなり、起きてしまうことが頻繁に起こるようになり、循環器の先生に診てもらったところ、心臓の働きは正常のようだが、やはり血圧のせいかもしれない(180-130ぐらい)ということで、やっと観念し、「ノルバスク」という血管拡張の降圧剤を飲み始めました。
すると不思議なことに、熟睡できるようになり、(血圧はもちろん下がった)、長年悩まされつづけた肩こりが一挙に解消してしまいました。人生が一変した気分で、こんなことなら早く服用していらばよかった、と思うほどですが、ベルソムラの例と同様、どこかに落とし穴があるような気もします。
先生の御見解をお聞かせいただけたら幸いです。
投稿: keizo | 2017年3月 2日 (木) 13時08分
keizo様
コメントいただきありがとうございます。「日々の賀状」で御紹介いただいた「日々の雑感」も読ませていただいています。keizo様の文学仲間の女性のブログでしょうか。
ノルバスク(アムロジピン)はカルシウム拮抗薬と呼ばれる種類の降圧剤の代表的な薬です。一般的によく処方される薬ですし、私も高血圧の患者さんにはまず処方する薬です。熟眠効果や肩こり改善の話は今まで聞いたことがありません。交感神経が亢進して血圧が上がっている状態では不眠や肩こりが起こりやすい可能性はあり、薬の作用により血圧が正常化したことで、もしかすると逆に交感神経の興奮が収まって、眠りやすくなったり筋緊張がほぐれて肩こりが改善したりすることもあるのかなあ、と愚考します。もっとも、薬を飲むことで体調が全般的に良くなって、二次的に快眠や肩こりの改善ということになっているかもしれませんし、たまたま薬を飲んだら調子が良くなって、「これで調子が良くなった」と思い込んで、いろいろなプラスの効果が出る一種のプラセボ効果なのかも知れません。何とも歯切れが悪くて申し訳ありません。ともあれ、keizo様の体調が良くなられたのは喜ばしい限りです。
投稿: 四分休符 | 2017年3月 2日 (木) 21時20分
先生、早速のご回答をありがとうございました。
ネットでも、ノルバスクによる睡眠障害、肩こりの改善を探してみましたが、ごく少数を除いては、ほとんど見つけられませんでしたので、先生のおっしゃる通りかもしれません。ともかく、しつこい肩こりと、睡眠障害から解放されて、よかったよかった、ということにしたいと思います。「日々の雑感」の方は、知人から頼まれて、ブログの設定をしてさし上げました。
投稿: keizo | 2017年3月 3日 (金) 08時58分
keizo様
ノルバスクの添付文書を見ますと、副作用の記載の中に「眠気」と「不眠」の両方が書かれており、どちらも頻度はかなり少ないようです。あまり一般的ではないのですが、keizo様に別の効果が得られたのは儲けものですね。
投稿: 四分休符 | 2017年3月 3日 (金) 19時11分