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2017年6月12日 (月)

神経質礼賛 1394.街の魚屋さん

 スーパーや大型ショッピングセンターの影響で、街から八百屋、肉屋、魚屋、といった生鮮食品を扱う個人商店が姿を消して久しい。私が住んでいる地区で魚屋さんは一軒だけである。一方通行の狭い道路に面した小さな店で駐車場はなく、近隣の人たちが歩いて買いに来る。普段は通らない道なので、今まで買ったことはなかった。土曜日に刺身を食べたいなと思い、仕事帰りにちょっと回り道をして初めて買いに行ってみた。先客が終わったところでマグロの中トロを注文すると「今日はいいのが入ってますよ」と切ってくれる。白身魚は何かありますかと尋ねると「ヒラメとホウボウが入っているけれど、ホウボウは好き嫌いがあるからねえ」と言われてヒラメにする。しめ鯖と生シラスも頼む。「ウチのしめ鯖はちょっと味が変わってるって言われることがあるんですよ」と言いながらしめ鯖に包丁を入れてくれる。「ワサビを付けますか、それともショウガにしますか」と言われてショウガにする。スーパーでトレイに入った刺身パックを選んで買うのがすっかり普通になっていたので、店主と話をしながら魚を買うというのが何とも新鮮に感じた。実際に食べてみると、やはりスーパーで買ったものと比べると鮮度が良くて美味しい。しめ鯖も塩分控えめで魚そのもののうま味が口に広がる。変わっていると謙遜しながら店主自慢の味付けなのだろう。知りたがりの神経質なので、ホウボウってどんな魚かなと調べてみる。面白い形をした魚である。今度行った時にはホウボウを試しに買ってみようと思う。


 消えゆく街の魚屋さんということから、ふと消えゆく森田療法という言葉が頭をよぎる。不眠や不安を訴えて受診してくる神経症圏の人の多くはてっとり早く症状を消し去ってくれる薬を求めている。中にはネットで薬を調べ上げて薬の銘柄を指定してくることもある。黙って御希望の薬を処方すれば効率が良いし、薬欲しさにせっせと通っていただければ医療機関は儲かるけれども、薬の売人に徹することは私にはできない。森田先生のようにその人の日常生活習慣にスポットを当てた上で「病気ではない」「薬はなるべく飲まない方が良い」とやってしまうのである。

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コメント

「刺身を食べたいな」と思い立つところが先生ご健康の証で素晴らしいです。「白身魚は何かありますか」とは言ってみたいかっこいいセリフですいい魚屋さんを開拓なさいました。店の方も四分先生のようないいお客さんがついてくれるとさらに成長すると思われます。
薬のやりとりだけの治療では森田療法がもたらす「性を尽くす生き方」には到底たどり着かないでしょう。せめて森田先生や四分先生のご本が広く読み継がれていくことを祈ります

たらふく様

 コメントいただきありがとうございます。
 何でも合理化、省力化、無人化の時代ですが、客と対話しながらの昔風の商売もなかなかいいものですね。これも味の一部です。
 もしかすると精神科医療は50年先、100年先には医師に代わってAI(人工知能)が診断・治療をするようになっているかもしれません。しかし、AIが生き方を教えてはくれません。森田先生の教えは時代が変わっても普遍的なものだと思います。そのすばらしい叡智をぜひとも後世に末永く伝えていきたいものです。

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