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2017年10月26日 (木)

神経質礼賛 1438.ナート(縫合)

 医療関係者の間で使われるいわば業界用語にナートという言葉がある。ドイツ語のNahtからきていて、縫合(処置)のことである。研修医の時には転倒して頭部や顔面から出血している人の傷の縫合を随分したものである。医大生の臨床実習の時に練習はするけれども、誰が指導してくれるわけでもなく、いきなりぶっつけ本番でやっているうちに慣れてくる。

 最近は医療用のテープの良いものができて、それで傷の処置をして縫合しなくても良い場合が増えた。かれこれ5年以上縫合処置をしていなかった。今週の当直では、転倒して唇の端の部分に深い裂傷をきたして出血が止まりにくい人がいて、久しぶりに縫合処置をした。老眼のため見にくいし、しばらくやっていないと忘れていてちょっと時間がかかった。糸結びもどうだったかなと思い出しながらである。夏場にノーネクタイで済ませていると、ネクタイの仕方を忘れてしまうのと同じである。

 縫合の道具は、滅菌パックに入った針付きのナイロン糸、滅菌済みの持針器・ピンセット・ハサミなどがセットで用意されているのが普通である。20年以上前、愛知県内の某精神科病院で当直した時のことだ。夜中に「転倒して頭から出血している患者さんがいるのでナートお願いします。準備ができたらまた連絡します」と病棟から電話があった。頭部だと、傷周囲の毛髪を剃り落とす必要があるので、ちょっと時間がかかっているのかな、と思った。ところが30分経っても連絡が来ない。40分か50分位してからようやくまた電話が入り、病棟に行ってみて唖然とした。縫合用の絹糸と針、道具類それにゴム手袋まで煮沸消毒していたというのだ。処置用の滅菌手袋は本来使い捨てなのだが、何度も使われたゴム手袋は変色し伸びきってヨレヨレになっていて使いにくい。絹糸は煮えくたびれていて、せっかく縫っても結ぶ時に簡単に切れてしまい、何度も縫い直すハメになって往生した。家康誕生の地であるから、物を大切に使おうという精神が徹底しているのだろうが、これでは困る。今はその病院の院長は息子さんの代になったから、こんなことはないだろうけれども。

 笑い話ではない。どうかすると神経質も自分のローカルルール「かくあるべし」にとらわれて、この種のムリを押し通そうとすることがあるので注意が必要である。

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