神経質礼賛 1442.「存亡の危機」か「存亡の機」か?
11月4日付毎日新聞朝刊の「校閲発 春夏秋冬」というページに「存亡の危機」という言い方が誤用かどうかという記事があって興味深く読んだ。文化庁の世論調査では、存続するか滅亡するかの重大な局面をどう表現するか、で「存亡の機」とした人はわずか6.6%に過ぎず、「存亡の危機」とした人が8割以上だったが、文化庁は「存亡の機」が本来の言い方だとしている、とのことである。「存亡の危機」は新聞や雑誌の見出しや記事で、経営が悪化して倒産寸前の名門企業や弱小政党の表現によく登場する。有名作家の小説の中でも法律の文言の中でも使われているとのことだ。そして、「存亡の機」の使用例はほとんどないという。愚考すると、存続と滅亡は反対の言葉だから「存続の危機」とした方が適切なのだが、「存亡の危機」とした方が切羽詰った様子が伝わるように感じる。実は「存亡の危機」も「存亡の機」とも辞書にはほとんど載っていないとのことだ。ただし、三国志で有名な諸葛孔明が「出師(すいし)の表」の中で「存亡の秋(とき)」と述べた言葉は辞書に載っているという。新聞の記事では、「存亡の機」を文化庁が本来の言い方として決めつけ「存亡の危機」が誤用であるような印象を与えるのはおかしい、難しく考えなくてよいのではないか、と結論付けている。
校正の仕事は非常に神経質でなければ勤まらない。著者が見落としたミスや不適切な表現を探し出して訂正するのである。拙著を出版した時にも白揚社の編集者さんにずいぶん手直ししていただいたものだ。単純なミスや言葉の誤用や言い回しのまずい所だけでなく、時には「言葉狩り」に近いのではないかと思うものもある。「製薬メーカー」という表現がNGとされて「製薬会社」に訂正した。確かにメーカーという言葉は製造会社を意味するから、「女の婦人」と同様の重複表現にあたる。しかし、実際の医療現場では「製薬メーカー」という表現はよく使われていて、医療系雑誌や医療系サイト、それこそ製薬会社が配布しているパンフレットでも見かける。厳密には誤用であっても言葉は生き物であって、だんだん変化していくものなのである。
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