神経質礼賛 1467.人を見て法を説け
森田療法に限らず、すべての精神療法はその人に合った使い方をしなければ効果がないばかりか有害になる可能性もある。同じ症状であっても人の性格特性や能力には個人差があるから、森田療法にしても金科玉条のごとく「あるがまま」「行動本位」を振り回してもうまくいかないことがある。状態によっては薬物療法が必要なこともあるだろうし、症状の辛さに共感して支えながら適度な作業を選択するようアドバイスすることが必要な場合もあるだろう。その時のその人の状態に合わせた診立てが精神療法家には求められるのである。まさに「人を見て法を説け」である。森田先生は次のように言っておられる。
さて、前に話したように山野井君には、字が全く書けないのに、会社を辞職してはいけないといい、今また、早川君には本人が病気が治らないと思っているのを、家へ帰って家人には治ったといわなければならないというのは、常識からいえば、なんと考えても、無理で、身勝手で、言語道断というよりほかない。しかるに山野井君は、その無理が通って、たちまちにして心機一転して治り、早川君は充分に実行ができなかったがために、全治する事ができなかった。私がこれらの人に対して、無理な要求をするのは、いわゆる「人を見て法を説け」であって、この人ならば、これで治ると思うからであって、こんな事を普通の人にいったら、それこそ全く馬鹿にされてしまうのでありましょう。(白揚社:森田正馬全集 第5巻 p.144)
症状の有無にかかわらず健康人らしく行動するよう導いていくのが森田療法の特徴である。恐怖突入(212話)で突破できれば大きな進展となる。機が熟したタイミングを見計らって背中を押すわけであるが、本人が頑として動かなければ効果が出ないのは言うまでもない。素直な人ほど治りが早い。
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