神経質礼賛 1490.人前で楽に話をするには
昼食後に職員食堂の給茶機でお茶を入れていたら、あるケースワーカーさんから「大勢の前で話すのはやっぱり緊張しますよ」と話しかけられた。院内の会議では司会者をしている人だし、弁が立つ人なのだけれども、患者さんや外部団体の方々が大勢集まっての会合で話をする際に緊張されたとのこと。人前で楽に話をするにはどうしたらいいだろうか。そんな方法があったら、彼と違って話下手な私がまず知りたいところである。森田正馬先生が故郷の高知で座談会を行われた際、参加者が同じような質問をしている。
吉本氏 私は人前で話をするのが、苦痛で困りますが、どうすれば楽に話をする事ができるようになるでしょうか。
森田先生 ここに、人前で話が楽にできるような人が、幾人あるか。もしこの質問に同感の人が、二、三人もあればお話ししてもよいです。(一同に問いただしてみるに、人前で話が苦痛でない人はいない。)
森田先生 それでは、これはみな共通の人情であると思われるから、取りたててお話をする必要はなくなったのです。(大笑)苦しい事は誰も苦しいというのを平等観といいます。ただ自分一人が、特別に苦しくて、他の人はみな平気であるという風に考えるのを差別観といいます。神経質は自己中心のために、なかなかこの平等観の修養ができにくいのであります。(白揚社:森田正馬全集 第5巻 p.571-572)
残念ながら人前で楽に話す方法は存在しない。自分だけが人前で話すのが特別苦しい、それを楽にする方法はないか、とまず考えてしまうのが神経質人間にありがちのことである。誰もが緊張するのだから、楽に話せるようにしようという不可能な努力はやめて、神経質らしく、できる準備はした上で、本番では緊張しながらも一生懸命話せばそれで十分である。そして、人は本人が緊張していることを気にも留めないものである。
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