神経質礼賛 1487.軽うつに抗うつ薬は不要
読売新聞のサイトの中にyomiDrというコラムがあって、「その医療ホントに要りますか?」という記事が掲載されている。一昨日の記事は「抗うつ薬は8割の患者に無意味!?」というテーマだった。抗うつ薬の最大のライバルはプラセボ(偽薬)であることは以前に書いた通りである。代表的な某抗うつ薬で60%の人が治ったというデータの陰にはプラセボでも42%の人が治っているという事実がある。製薬会社は開発した抗うつ薬が有効であることを治験で証明するのに苦労していて、投与条件をあれこれ工夫してどうにか統計的にプラセボより優れているというデータを作り出しているのが現状である。日本うつ病学会でも、軽症うつ場合、プラセボに対して有効性を示せる抗うつ薬は存在しないという見解を出している。今回の記事の中で、独協医大の井原裕教授は、薬物療法よりも、適度な運動をしてアルコール摂取を控えるといった生活習慣を整えることで自己回復力を高めるのが大切だと説いておられる。
本当にエネルギーが枯渇したような古典的うつ病の患者さんは増えていない。うつ病の患者さんが増えたのは、うつ病の診断範囲が大幅に広くなり、従来で言えば抑うつ神経症や単に環境要因から抑うつ気分を呈している人まですべてうつ病にしてしまうからである(458話)。精神科外来には私よりもずっと元気な「自称うつ病」の人もやってくる。古典的なうつ病の場合、とにかく休養し、薬の治療を行うことは今も変わりない。しかし、軽症うつ病、現代型うつ病、新型うつ病と言われるような人に抗うつ薬を投与しても効果がないばかりか焦燥感を高めたり易刺激性や攻撃性を出現させたりするなど有害である場合もある(684話)。そして、場合によっては休養よりも、仕事上の不満について上司ときっちり話し合うことの方が有益ではないかと思われるケースもある。特に神経症に伴う抑うつ症状は休んでは逆効果ということもあり得るのである(312・313話)。
うつは心の風邪とも言われる。風邪をこじらせて肺炎レベルになってしまったら抗生剤が必要であるが、通常の風邪には抗生剤は不要であるばかりではなく有害であり、最近は抗生剤を投与しないのが常識となってきた。解熱剤も免疫の働きを抑えるのでなるべく使わない方が治りが早い。摂生して自己回復力による自然治癒を待てばよい。多くのうつも同様である。
« 神経質礼賛 1486.回覧板置場 | トップページ | 神経質礼賛 1488.玄関トイレ »
「神経質礼賛 うつのなおしかた」で検索したら、こちらにあたりました。
神経症は森田療法の考え方を参考に、それなりに頑張っていましたが、落ち込みが深くなって、3年ぶりで通院することになってしまいました。
うつ状態の生活のしかたが書かれていたような気がするのですが、私の記憶違いでなかったら、記事の番号をお教え頂けませんか。
投稿: 夏子 | 2019年6月28日 (金) 18時00分
夏子 様
コメントいただきありがとうございます。
多分、うつが長引いている方が森田療法的アプローチで良くなられた例はどこかで書いているような気がしますが、タイトルから「うつ」をキーに検索すると見つかりません。どうもすみません。
うつ状態は誰にでも起こりえます。外的なストレスが、それを跳ね返す力を上回り、それが続くと、うつ状態に陥るのです。ストレスを軽減するには、一人で悩まず、人に相談して(例えば、職場の上司に相談する、医師に相談して診断書を書いてもらう、家族や友人に相談してアドバイスをもらう・・・話すだけでも考えが整理できますし気分的に楽になるメリットがあります)ストレス軽減を図ることが重要です。
元来、神経質な方は、真面目で完全欲が強いですから、うつ状態になっても、「自分の頑張りが足りない」と思い込んでさらに頑張って疲弊してしまうという悪循環が起きやすいです。前述のようにストレス軽減を図るとともに、適度に休むのも仕事のうち、と考えて充電に努めるとよいでしょう。100点満点を目指さず、60点か70点を目指し、省エネを図りましょう。うつは時間が経てば必ずよくなってきます。焦らないで雨が上がるのを待ちましょう。
投稿: 四分休符 | 2019年6月29日 (土) 17時48分
ご返信と1640話を書いて頂き、とても嬉しかったです。
普段頼りにして読んでいるブログをお書きになっている先生のお言葉なので、文字どおり頼りにさせて頂きました。
現在は、朝から日中にかけて気分が落ちるので、しばらくは無為に過ごし、それから少したまっていたメルマガに目を通したり、新聞を読んで切抜きをし、合間に身体を動かすことをやってみました。一つ一つ、「片付いたね」と喜びながら。そして、不安な仕事に午後遅くいやいや着手したら、お陰さまで、「ここまで」と思っていたところまでやれました。
ご厚情に感謝いたします。
投稿: 夏子 | 2019年7月 1日 (月) 17時30分
夏子 様
うつの時は午前中が特に調子が悪いものです。最低限のことだけして、後は充電の時間で十分です。メルマガに目を通したり、新聞を読んで切り抜きをするのも立派な仕事です。合間に身体を動かすのはさらに良いです。小さくても一つ一つできたことを喜ぶ。他の方々にも大いに参考になる過ごし方だと思います。
投稿: 四分休符 | 2019年7月 2日 (火) 19時08分