神経質礼賛 1492.木島櫻谷(このしまおうこく)展
前話の続き。両国のアスリート食堂の定食でしっかり腹ごしらえをしてから六本木へ向かう。大江戸線は地下深くを走っている。エレベータで降りていく。パニック障害の人だとピンチに陥りそうな局面である。地下鉄を降りて出るまでも長くエスカレーターが続く。まず、サントリー美術館の「寛永の雅 江戸の宮廷文化と遠州・仁清・探幽」という展覧会を見る。茶道具は見る目がないのでさっぱりわからない。絵画は楽しむことができた。万福寺にある探幽が描いた釈迦・文殊・普賢図は、昨年京都の聖護院で見たものと同じ構図だった。
サントリー博物館を出てからが、私のような田舎者には大変で、混雑したミッドタウン内を右往左往する。何とか六本木通りに出て泉屋博古館(せんおくはくこかん)分館をめざす。泉ガーデンの看板を見て右に入ったが、そのまま狭い坂道を登ってしまう(なだれ坂)。使い慣れないスマホで現在地を見ようとするが、どうもよくわからない。歩き疲れてきたので、小さな喫茶店に入ってコーヒーを飲み、店主に道を教えてもらう。さらに、道端で工事現場の警備をしている人に尋ねてようやく行き着いた。
現在、泉屋博古館分館では明治から昭和にかけて活躍した日本画家・木島櫻谷(1877-1938)の作品が展示されている。櫻谷の絵画は日曜美術館などのTV番組で紹介されて人気が高まっている。動物画を得意とし、精緻な描写が見事である。動物園に通って写生を繰り返していたそうであり、スケッチ画帳とともに京都市立動物園から贈られた特別優待券も展示されていた。月夜に雪の積もった竹林の中のキツネを描いた「寒月」には思わず息を飲んだ。画の前にゆったり座れるソファがあってそこに座る。大迫力の画面に引き込まれる感じがした。黒っぽく見える竹は、群青の絵の具を焼いて酸化させて様々な黒さを作って描いたそうで、研究熱心さがうかがえる。この画には、当時新聞記者をしていた夏目漱石(626話)から「屏風にするよりも写真屋の背景にする方が適当である」とボロクソに批判されたというエピソードがある。それでも文展の最高賞を獲得している。TV番組で紹介された「かりくら」という題の絵も見ごたえがある。この画はかなり傷んだ状態で数年前に発見され、修復されて今回公開となっている。馬に乗った3人の武士が狩りをする場面で生き生きとした武士の表情や躍動する馬の表現が目を引く。会場では晩年に孫たちと遊ぶ櫻谷やその家族を映した3分間のフィルムが流されていた。その道を究めた人ではあるが、家族想いの優しいおじいちゃんだった様子がうかがえる。没年が森田正馬先生と同じ人なので、森田先生の晩年にも思いが及ぶ。閉館時刻のアナウンスで現実に戻る。
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