神経質礼賛 1509.潰せ
N大のアメリカンフットボールの選手が交流試合で試合の流れとは無関係に相手チームの選手に後ろからタックルして負傷させた件が大問題となっている。その状況が録画されていてTVニュースに何度も流された。そして、その選手が監督やコーチから「相手選手を潰せ」と指示されていたことが判明して監督やコーチの責任問題に発展した。
この話を最初に聞いた時は、「潰せ」というのはあくまでも比喩的表現で、それを選手が字義通り実行してしまったのではないか、もしかしてアスペルガー症候群的な傾向のある選手なのだろうか、という考えが浮かんだ。しかし、選手の記者会見での発言によれば、コーチから「相手選手がけがをしたらこっちの得」と具体的に言われ、監督からはやらなければ日本代表を辞退させると脅されていたようだ。それが事実ならば、傷害行為・犯罪行為を強要されたようなもので、この選手も被害者ということになる。
かつて高校野球の応援では「○○倒せ!ぶっ倒せ!」などとやっていたものだが、現在では、「ぶっ潰せ」「ぶちかませ」などはもちろん、「ぶっ倒せ」もよからぬ表現とされて聞かなくなった。しかし、闘争心を煽るためにスポーツの指導者がそうした言葉を使うことはあるのかもしれない。ただ、勝敗やチームの損得にこだわるあまり、相手の選手がけがをすれば得だと考えるのはいくら何でも異常である。
趣味程度のスポーツは健康的で心身に有益ながら、プロやオリンピックや大学など競技としてのスポーツは身体に有害であるだけでなく、勝ちさえすればよい・強ければ何をやってもよいという歪んだ思考に陥る危険性もはらんでいる。また、閉鎖的な指導環境はハラスメントの温床にもなりやすい。競技スポーツは輝かしい面だけでなく、そうした負の側面も持っているのである。
ところで、私はいつも、新しい患者さんの診察の際、生活歴の中で、学校でどんな部活に入っていたかを尋ねることにしている。神経質傾向の人は、バスケットやサッカーやラグビーのように人とぶつかり合うようなスポーツを選ばず、テニスや卓球のように相手とはネットを隔てていて直接ぶつからないスポーツを選んでいることが圧倒的に多い。神経質人間に「相手を潰して来い」と命じても相手の身を案じてできない話である。喧嘩も弱いがそれでよい。
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