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2018年9月 3日 (月)

神経質礼賛 1542.背水の陣(2)

 現代の森田療法はソフトになり、治療者もすっかり柔らかくなった。症状を訴えれば「大変でしたねえ」と労ってくれる。森田正馬先生や鈴木知準先生、あるいは私の師であった大原健士郎先生のように叱ることはなくなった。でも、何か大切なものが欠落してはいないだろうか。森田療法の大切な屋台骨である「不問」はすでに崩落しかかっている。「問うても不問」(850話)・「半不問」(1207話)という方法もあるのに、である。そして、できるのにやらないで避けている人の背中を押してあげることもしなくなった。


 
 以前、383話に「背水の陣」について書いた。そこには森田先生が形外会で語られたものを引用しているが、他にもあるので紹介しておこう。


 
 さて、書痙なり・そのほかの神経質の症状の治るには、背水の陣という事が最も必要な事です。背水の陣というのは、兵法で敵前に、川を後にして陣をしいて、逃げる事のできないようにする事です。退却する事ができないと確定すると、突進して血路を開くほかに方法が尽きてしまう。鼠一匹でも、正面からパッと飛びかかって来ると、たいていの人が身をかわすものです。必死の勢いで突進して行けば、必ず血路は開ける。これを必死必勝といいます。「窮すれば通ず」といって、神経質の症状は、みなこの心境になりさえすれば、必ず全治する事ができます。(白揚社:森田正馬全集 第5巻p.687

 
 森田先生は、やればできるのに恐怖突入できないでいる人に対してここぞというところで背中を押された。そこで仕方なしに背水の陣の覚悟で突破して劇的に良くなるのだ。まさに「砕啄同時(啐啄同時)」(
440話)である。こういうことは現在ではなくなった。

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